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前哨戦 駆け引き

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

「ああもうっ! 面倒な爺さんだな!」


 黒太子や征龍候もそうだったが、フエーゴもこれまで魔王軍が収集した「俺の攻略法」を、しっかり活用しているようだ。


「思いがけず、苦戦しているみたいね」


 後ろから、フィオレが茶化すような言葉を投げ掛けてくる。


「四大貴族の後継者と前任者を相手に、力を温存している余裕があるの?」


「分かってるよ」


 どうやら、フィオレは、俺が力をセーブしながら戦っていることに、気づいているらしい。


「相手を納得させたいなら、なおさら、本気で戦うべきだと思うけど」


「はいはい、そのとおり」


 耳が痛いことを言ってくるフィオレに、雑な返事をすると、俺は地面に埋まった足を強引に引き抜いて、ついでに拾い上げた拳ほどの大きさの石を、思い切り投げつけた。


 狙いは、バンクの方だ。


「むっ!?」


 たかが投石と侮れば、命取りになることを感じ取ったのだろう。


 バンクは土で防壁を作ろうとしたが、その前に、防御が間に合うかどうかを見極めるため、俺との距離を目測で確認してしまった。


 ほんの一瞥――――時間にしてコンマ数秒のロスが生じる。


 その結果、地面からせり上がった防壁は、間に合いこそしたものの、俺が全力で投げた石を跳ね返すだけの装甲を作り出すことができなかった。


「ぐっ……!」


 ハリボテの装甲を突き破った投石は、バンクの体に直撃した。とはいえ、威力はかなり相殺されているので、与えたダメージはせいぜい顔をしかめる程度のものだろう。


 だが、物理的な痛みは比ではないほどの、心理的なプレッシャーを与えたはずだ。


 白兵戦をするには遠く、弓で射るには近すぎる中距離での戦闘は、魔法使いが最も得意とする間合いであると同時に、俺の投擲が最も威力を発揮する間合いでもある。


 この距離ならば、突風などの外的要因が無い限り、俺は狙いを外さない。


 そして、この距離からの投擲が命中すれば――――その威力は一撃必殺だ。


 地面に転がっているただの石ころが、百発百中の魔弾になるのだ。しかも、屋外で戦っている限り、弾切れになることは無い。


「気をつけろよ。当たったら死ぬぞ?」


 俺が脅すような声色で注意喚起すると、バンクの表情に微かに恐怖の色が浮かんだ。


 これで、今後、バンクは常に防御を意識しながら戦わざるを得なくなった。意識が守備よりになるため攻撃のテンポが悪くなるし、防壁に魔力のリソースを割く必要があるため、全力の攻撃もできない。


 更に――――バンクには、自分以外の護衛対象がいる。


 俺は足下から適当な石を拾い上げると、


「次はお前の番だ!」


 フエーゴに狙いを定めて投擲した。


「いかん!」


 バンクは慌てて、フエーゴの前方に土の防壁を作り出した。今度は行動に一切の躊躇が無い。


 当然だろう。


 土の魔法とは異なり、火の魔法では、俺の投擲を防ぐ手段が無いのだ。これが木製の矢なら、当たる前に燃やすことができるかもしれないが、石を溶かすことはさすがに不可能……というか、石は溶けたらマグマになるので、逆に危険度は増してしまう。


 勿論、そんなことをしなくても、頭を抱えてその場に蹲れば、回避できる確率は跳ね上がるのだが、それでは不利な体勢になってしまうし、何より「まず魔法で対処しようとする」のが魔法使いという生き物だ。


 バンクが本気で作り出した土の防壁は、踏み固められた地面のように固く、俺の投げた石を完璧に防ぎ切った。


 だが、それはどうでもいい。本命は――――次の攻撃だ。

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