前哨戦 バンクと黒太子
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「なあ。あんた、俺のことを恨んでいないのか?」
「……これは、奇妙な質問をするものだ」
普通、そんなことは疑問に思っても訊かないだろう、と。
バンクは顔をしかめて呟いたが、律儀に回答してくれた。
「家族を殺されたことに対する怒りの感情なら、勿論、ある。だが、先程、そちらも同じことを言ったように、これは戦場で敵同士が戦った結果だ。恨むのは筋違い――――そんなことは、百年前から同じことを繰り返してきたのだから、さすがに理解している」
それに……と。
バンクは言葉を止めたが、僅かな逡巡の後、結局、すべてを話すことにしたようだ。
「私と息子の間には、親子の情のようなものは殆ど無かった。少なくとも、息子は私のことを疎ましく思っていたはずだ。なにしろ、軍の後継者に指名されると、瞬く間に他の兄弟たちを排除し、部下を恐怖で縛り付け、全権委譲を得るために、私を力ずくで隠居させたのだから。私が言うのも酷い話だが、ろくでもない息子だった」
「なるほどね」
どうやら、俺が黒太子を討ち取ったせいで、バンクは第四方面軍を立て直すために、隠居を撤回して現場に戻ることになってしまったようだ。
「他の兄弟を軍に呼び戻そうかとも考えたが……。終戦が間近だという噂を、最近は耳にするものでね。フェデルタには申し訳ないが、この戦争が終わるのであれば、その責任を取るのは老兵であるべきだ。若い世代には、過去の清算ではなく、祖国の未来を守ってもらわなければならない」
「……だから、さっき、自分は殺されてもいいみたいな言い方をしたのか?」
「私はただの「繋ぎ」だからね」
後釜は既に用意している、と。
バンクは淡々と事実を述べた。多分、黒太子に排除された兄弟を、終戦後、軍の後継者に据えるつもりなのだろう。
「もしかして、あんたも戦争が終わればいいと考えている口か?」
「……アスラのような大罪人の若造と一緒にしないでもらおうか」
あれに比べれば、ろくでなしの息子の方がまだマシだ、と。
バンクは吐き捨てたが、目元や口元は微かに笑っているようにも見える。
多分、俺の言ったことも、バンクの言葉も、正しいのだろう。見るからに古い世代の魔人であるバンクは、魔王シンパの厭戦派で、魔臣宰相に近い考え方なのではないだろうか。
だとすると、俺が魔王と戦う際には、バンクも必ず立ちはだかる敵の一人ということになるので、この機会に倒してしまえば、俺も人類軍も楽になるのだが……。
(でも、さっき後釜がいるって言っていたからな。この爺さんを倒しても、第四方面軍はすぐに立て直してきそうなんだよな……)
作戦の読み合い、騙し合い、腹の探り合いに関しては、俺ははっきり言って得意な方だが、バンクのように「備えあれば憂いなし」のスタンスで、こちらの勝ち筋を一つずつ丁寧に潰してくるタイプの敵は、苦手としている。相手をすると、とても疲れるからだ。
(あー、面倒くせー)
そんな俺の内心の不満など露ほども知らない様子で、
「――――さて。少し、話し過ぎてしまったようだ」
そろそろ始めよう、と。
バンクとフエーゴは、戦闘態勢に移行した。
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