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前哨戦 助命の嘆願

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

「どうする? 今、ここで俺と戦うか?」


「無論だ! 元より、仇討ちを他人任せにするつもりは無い!」


「分かった。――――じゃあ、やろう」


 俺は頷いて、覚醒の扉を開いた。


 俺の全身から溢れ出した膨大な魔力を目の当たりにして、フエーゴとバンクは言葉を失う。後方に控えている第一方面軍と第四方面軍の兵士からも、どよめきが起こった。


 フィオレが無言のまま、俺を中心に広がる「魔法を使えない空間」に巻き込まれないように後退した。


「そっちはどうする? 俺と戦うか?」


「……ん? そうだな」


 俺が尋ねると、バンクは即答せずに、しばし考え込むような仕草を見せた。


「二対一でも構わないと?」


「戦争だからな。そういうこともある」


「そうか。――――ならば、戦うとしようか」


 バンクは頷いたが、すぐには戦闘態勢を取らず、一つの要求をしてきた。


「それと……。恥を承知で、聞き入れてほしいことがあるのだが」


「何だ?」


「私のことは殺してくれて構わないが……。隣にいる、この血気盛んな若者のことは、どうか殺さないでやってほしいのだ」


 バンクの頼みは、まさかの助命の嘆願だった。


「バンク卿!? 何をおっしゃるのですか!」


 勝手に命乞いをされたフエーゴは、怒りの形相で反論した。見方によっては、侮辱されたも同然なので、フエーゴが怒るのは当然だと言える。


「私は命など惜しくありません!」


「分かっている。だが、冷静になって考えてみてほしい。――――君の魔法は、目の前にいるあの男に届くのかね?」


「……っ!」


 諭すようなバンクの言葉に、フエーゴは言葉を詰まらせた。


「魔法を使える者なら、直感で分かるはずだ。あの男に、生半可な魔法は通用しない。あれは魔法使いの天敵だ。残念なことに、私の息子も、ヴォルカンも……」


 あの男と戦って――――実力で負けたのだ、と。


 バンクが達観したように伝えると、フエーゴは聞きたくないとばかりに激しく頭を振った。


「そんなはずは!」


「信じたくない気持ちは分かるが……。私の場合は、実際に息子の死体を確認しているから、納得せざるをえなかった。同時に、安心もしたよ」


 そう言うと、バンクはゆっくりと俺に目線を向けた。その表情から、怒りや憎しみの感情は読み取れない……が、ポーカーフェイスで隠しているだけかもしれない。


「私の息子は、強かったかね?」


「強かったぞ」


 俺は間隔を開けずに、即答した。考えるまでもない質問だったからだ。


「黒太子も、赤髪侯も、どっちも強かった。もし、無策のまま一対一で戦っていたら、勝てなかったかもしれない」


「……そうか。強者と戦い、戦場で散ることができたのなら、息子も本望だろう」


 そう言うと、バンクはようやく身構えた。


「先程の恥知らずな嘆願は撤回しよう。老婆心から出た言葉ではあるが、配慮が足りなかったようだ。――――思う存分、戦いなさい。今の君の全力を、あの人間の勇者にぶつけてみるといい」


 支援は私がするから、と。


 フエーゴを激励するバンクの周囲では、地面から土の塊が浮かび上がり、ぼこぼこと変形して、圧縮された固い土の砲弾へと姿を変えていく。


 無属性の魔力を触手のように伸ばせば、簡単に無効化できてしまうのだが……。ひとまず、俺は放置することにした。


 バンクに、確認したいことができたからだ。

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