前哨戦 仇討ち
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サルーキの話によると、今回、獣人国に攻め込んできた魔王軍の部隊は、魔臣宰相の率いる第三方面軍ではなく、第一方面軍と第四方面軍の混成部隊らしい。
どちらも、総督である四大貴族を俺に討ち取られたことで、一時的な活動停止に追い込まれた軍隊だ。
赤髪侯ヴォルカンと、黒太子チェルノゼム。
――――どちらも強敵だった。
(活動を再開したってことは、後任者が決まったってことだよな)
正直に言ってしまえば、この時点で既に悪い予感しかしない。
四大貴族が率いていた軍を引き継ぐのは、普通に考えれば、四大貴族の血族だからだ。
野営地で待機していた俺とフィオレは、前線で戦闘が始まりそうだという知らせを受けて、飛翔魔法で現場に駆け付けた。
両軍の中間地点に降り立ち、魔王軍に対して名乗りを上げる。
程なくして俺の前に、二人の男が現れた。
一人は、俺と同い年くらいだと思われる赤髪の青年。フエーゴと名乗った。
もう一人は、フエーゴとは逆に、魔臣宰相と同世代ではないかと思われる白髪の老人。こちらはバンクと名乗った。
(嫌な予感が当たったみたいだな……)
しんどいな、と。
心の中で愚痴ったが、戦争をしている以上、避けては通れない道だ。
フエーゴは赤髪侯ヴォルカンの息子。バンクは黒太子チェルノゼムの父親だった。
要するに、二人にとって俺は「家族の仇」になるわけだ。
言うまでもなく、目的は仇討ちだろう。
*
「なあ。単刀直入に聞くけどさ。これって、魔臣宰相の指示なのか?」
家族の仇を討ちにきた二人を前にして、俺は真っ先にそれを確認した。
なぜなら、これは見方によっては、千載一遇のチャンスだからだ。
今、俺が目の前の二人を討ち取ってしまえば、第一方面軍と第四方面軍を、再び活動停止に追い込むことができる。そうなったら、魔王軍は獣人国北側の国境から撤退を余儀なくされてしまい、今後の戦闘の主導権を握ることが難しくなる。
勿論、俺が逆に討ち取られてしまう可能性もゼロではないが、最終決戦の序盤……というか初手で、こんな大博打を仕掛けることが合理的な作戦とは思えない。
そんなことをしなくても、だらだらと小競り合いを繰り返すだけで、人類軍は兵站の消耗を強いられて、魔王軍に有利になるのだが……。
(もしかして、俺を覚醒させて、反動で昏睡状態にすることが目的か?)
たしかに、俺が意識を失っている間は、人類軍が総攻撃を仕掛けることは絶対に無いが、そんなことをしても、せいぜい数日間の時間稼ぎにしかならないし、そもそも数日間で人類軍の準備が整うことはない。だから、やはり合理的ではないのだ。
俺が、そんなことを考えていると、
「私たちが、こうして君の目の前にいることについて尋ねているのなら、それはフェデルタの指示ではないな」
白髪の老人――――黒太子の父親であるバンクが、俺の質問に答えてくれた。
(指示じゃないってことは、二人の独断か)
そこまでして、家族の仇を討ちたいのだろうか……と。
一瞬、考えたが、すぐに「討ちたいのだろうな」と思い直した。
仇討ちとは、そういうものだ。
非常にしんどいが、逃げずに、受け止めなければならない。
「えーと……そうだな……」
相応の覚悟を決めて、今、この場にいると思われる二人に対して、俺は、何か伝えることはないだろうかと考えた。
別に命乞いや、言い訳をするつもりはないし、このようなことが自分の身には起らないと、タカを括っていたわけでもない。
敵と味方に分かれて、戦争をしているのだ。家族や仲間を殺された、あるいは殺したなどという悲劇は、毎日のように起きているはずだ。
今回は、自分が当事者になっただけ。これは特別なことではないのだ。
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