魔王軍の砦跡地 雰囲気が良くない
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「でも、魔王は国内が大混乱に陥ろうと、裏切り者は処刑しろと命令するはずだし、命令されたら、お前の親父は逆らえないだろ?」
「……無理だろうな」
「だろ? だから、魔王軍の本隊は独立派にトドメを刺さないはずだ。」
少なくとも、人類軍との戦争が終わるまでは、そうなる可能性が高いと思われる。
のらりくらりと独立派の処断を後回しにして、ほとぼりが冷めた頃に、軽めの刑罰で穏便に済ませるか、処分そのものをうやむやにしてしまうつもりなのだろう。あるいは魔臣宰相にもこれといった妙案が無く、問題の解決を先送りしているだけかもしれないが。
「それまでは、行き場の無い人たちを保護するこの町は必要なんだよ。なんなら、今後、避難してくる人は増えると思うぞ」
「マジかあ……」
ジェニオは心の底からげんなりした様子で、ため息を吐いた。
「計画は順調なんだから、別にいいじゃん」
「人が増えるのは良いことかもしんねーけどさ。規模がデカくなればなるほど、いざ揉め事が起きた時の反動も大きいんだろうな……って考えたら、不安しかねーよ」
「意外に繊細なんだな」
「誰もがお前みたいに神経が太いわけじゃないんだよ」
ジェニオは憎まれ口を叩いて、恨めしそうに俺を睨み付けた。
「実際に、何か問題や面倒事が起きたことがあるのか? 喧嘩とか」
「問題を起こしたら追い出すと事前に言ってあるから、今のところ、それは無いけど……」
ジェニオの話によると、この周辺地域で農奴として働かされていた人間のグループと、独立派を見限り、避難してきた魔人のグループは、当然かもしれないが、すぐに打ち解けることはなかったようだ。気まずい雰囲気の中、ろくに言葉を交わすことも少なく、農作業に従事しているらしい。
「お互いに避けているというか、遠慮しているというか……。とにかく、雰囲気が良くないんだよ。だからといって、無理やり仲良くさせることはできないし……」
「最初のうちは、仕方ないだろ。我慢しようぜ」
「他人事みたいに言いやがってよぉ……」
こっちはストレスで胃が痛くなりそうなのに、と。
ジェニオが腹に手を当てながら言うと、それを聞いていたライカが、ポケットから回復薬の瓶を取り出して、そっと差し出した。
「あの……。もし、お腹が痛くなったら、これを飲んでください」
「回復薬か? いいのか?」
「はい。それと……。もし、怪我をしている人や疲れが溜まっている人がいたら、治癒魔法を掛けてあげられたらな……って、思うんですけど。……どうでしょうか」
遠慮がちにライカが提案すると、回復薬を受け取ったジェニオは、驚いたようにはっと息を飲み、慌てて兵士に指示を出した。
「いるいる。皆、疲れてると思うから、治癒魔法を掛けてやってくれよ。おいっ、怪我人と、年寄りと、体調を崩している奴と……。とにかく、そういう連中を集めてくれ」
「砦の前に集めればよろしいですか?」
「それでいいから、急げ」
俺たちも後から行くから、と。
ジェニオが追い払うような仕草で急かすと、兵士は小走りで砦に引き返して行った。
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