竜の巣訪問 我こそが相応しい
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本来、竜の巣に護衛を依頼するのは、自重すべきだ。竜の巣は魔王軍と敵対関係にあるものの、人類軍の味方というわけではない。それに、先日の戦闘で竜王が深手を負ったことで、今後は専守防衛の方針をより徹底して、人類とも一定の距離を置こうと決めたばかりだ。
それにも関わらず、俺たちはヨキに協力を仰ぎ、オース海峡まで遠征してもらい、独立派を欺く時間稼ぎや、最後の戦闘にも参加してもらっている。
その上で、今度はライカとヒナを護衛してくれと依頼するのは、魔王軍との戦闘に最後まで付き合わせようとする行為に他ならない。率直に言ってしまえば、厚かましいことだ。
だからこそ、「恥も外聞もなく」なのである。
俺は、自分の考えや、今の状況などを正直に話して、その上で護衛を依頼した。
「竜の巣の方針を尊重するどころか、無視するようなお願いになっちゃうんだけどさ。でも、現状、頼れるのは竜の巣だけなんだ。どうか、俺たちの我が儘を聞き入れてほしい」
「お、お願いしますっ!」
ライカも俺の後に続いて、深々と頭を下げた。
「……二人トモ、頭ヲ上ゲヨ」
真っ先に返答したのは、ナルヒェンだった。
「水臭イデハナイカ。盟友デアル我ニ、ソノヨウナ遠慮ハ不要デアル」
「じゃあ……?」
「フハハハ! 身重デアルニモ関ワラズ、勇者ト魔王ノ戦イヲ最後マデ見届ケヨウトハ、見上ゲタ心意気デアル! ソノ願イ、天空ノ支配者タル我ガ叶エテヤロウデハナイカ!」
いつものように芝居がかった口調で、ナルヒェンは協力を快諾してくれた。独立派の件で協力を依頼した際も、ナルヒェンは首を突っ込もうとしてきたので、実は単純に手伝いたいだけなのかもしれないが、ありがたいことには違いない。
「待テ」
そこに口を挟んできたのは、モースだった。
「ライカハ身重ナノダ。背中ニ乗セテ飛ブニハ、貴様ハ相応シクナイ」
「ナ、何故デアルカ!?」
「貴様ノ背中ハ、ゴツゴツシテイテ乗リ心地ガ悪イカラダ。ソレニ、見タ目モ気持チ悪イ」
「キモ!? ソレハ言イ過ギデアルゾ!」
ナルヒェンがショックを受けた様子で、モースに激しく抗議する。
「乗リ心地ナド、我ガ注意スレバヨイダケデハナイカ!」
「ソレデハ、貴様ノ唯一ノ長所デアル飛行速度ヲ活カセナイデハナイカ。速ク飛ブコトノデキナイ貴様ナド、存在価値ガ無イ」
モースは、歯に衣着せぬ言い方でナルヒェンを口撃すると、我こそはと護衛に立候補した。
「大事ナノハ、敵ノ攻撃ヲ回避スル機動力ト、接近スル敵ヲ撃退スル攻撃力ダ。コノフタツヲ併セ持ツ俺コソガ、ライカノ護衛ニハ相応シイ」
「馬鹿ナコトヲ! ソモソモ、貴様ハ謹慎中デハナイカ!」
「罪滅ボシノ機会トナレバ、話ハ別ダ。覇王丸ニ救ッテモラッタ命ヲ、コノ時ノタメニ使ワナケレバ、俺ハタダ生キ長ラエタダケニナッテシマウ。護衛ハ、俺ノ役目ダ」
「イヤ、我ノ役目デアル!」
両者とも一歩も引かずに、至近距離から睨み合った。下手をすれば、鬼人の島でヨキとラハムが殺し合った時よりも、迫力があるかもしれない。
「貴様ノ攻撃魔法デハ、背中ニ乗セタライカガ、火傷ヲシテシマウデハナイカ! 乗リ手ヲ傷付ケルナド、愚ノ骨頂! 環境ニ配慮シタ我ノ魔法コソガ、護衛ニ適シテイル!」
「木ヲ根コソギ薙ギ倒スヨウナ魔法ノ、ドコガ環境ニ配慮シテイルトイウノダ!」
「森ヲ燃ヤシ尽クス魔法ヨリハ、マシデアル!」
最初はきちんと自己アピールしていた二人だが、最後は互いの魔法を貶し合う、ただの口喧嘩になってしまった。
「えーと……ライカとヒナの二人には、ワタシとオレサマの背中に乗ってもらう予定だから、純粋に護衛をしてもらうだけでいいんだけど。……というか、喧嘩するなよ」
収拾がつかなくなってきたので、俺が竜王に助けを求めると、
「……別ニ、二人トモ護衛スレバイイダケノ話デハナイデスカネ?」
竜王も呆れているらしく、ため息と同時に、かなり投げやりな言葉が返ってきた。
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