休暇の終わり 独身のヤバい奴
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「この人は、法王様に誘われて、神聖教会に入信しようとしていました!」
「な!?」
なぜそれを!? と言いたそうな顔をして、マキちゃんが狼狽する。
「まーた、勧誘されそうになってんのかよ」
「違うよ! まだ、入ってないし! 法王様とお話ししただけだから!」
そもそも、入信は悪いことじゃないでしょ!? と。
マキちゃんは、半ば開き直るような反論をしてきたが、それはそのとおりだ。思想の自由や信教の自由は、中学生の頃、公民の授業で習った記憶がある。ここは日本ではないが。
だが、マキちゃんの潔白は、ヒナの更なる告発で崩れ去ることになる。
「この人は、法王様を唆して、結婚しないことを推奨するように、神聖教会の公式見解を変えようとしていました!」
「な!?」
なぜそれを!? と言いたそうな顔をして、マキちゃんは顔面蒼白になった。
「はい、アウト」
これについては、さすがに擁護できないので、俺は有罪判決を下した。
「そんなの、もう、間接的に人類を滅ぼそうとしてるじゃん」
神聖教会はオット大陸を席巻する一大宗教なので、敬虔な信徒が公式見解を真に受けて、結婚しなくなってしまったら、マジで人口減少に繋がりかねない。
「世界的な宗教の力を利用して、道連れを増やそうとするんじゃねーよ」
「誤解だよ! 宗教だと、神職に就いている人は結婚できなかったりするでしょ!? 神聖教会はどうなのかなーと思って、聞いてみただけだよ!」
マキちゃんは必死になって言い訳をはじめたが、たしかに、カトリックの神父は結婚できないという話を、聞いたことがある。
「それで? 神聖教会は、どうだったんだ?」
「別に禁止はされていないけど、任意で独身の誓願を立てる貴族はいるんだって。神聖教会に人生を捧げるみたいな感じで」
「ふーん……。決意表明みたいなものか」
俺は頷きながら、魔人の魔力痕に似ているなと思った。魔人が自分の体に魔力痕を刻む行為も、軍に対する覚悟や忠誠心の証と見なされたはずだ。
要は、所属する組織に対する自己アピールなのだろう。
「それで、マキちゃんも神職に就いて、自分を正当化しようとしたわけか」
「だから、違うってば! そもそも、私、結婚したいだなんて思ってないからね!? 自分の意思で結婚していないだけなんだから!」
「は? この期に及んで、そんなことを言うのか?」
俺の記憶違いでなければ、マキちゃんは事あるごとに「それは告白か?」とか「プロポーズなのか?」とか、積極的に言質を取ろうとしていたはずだ。どう考えても、結婚したくないと思っている者の行動ではない。
(なんだか、面倒になってきたな)
正直なところ、マキちゃんが入信しようが、神職に就こうが、結婚できないことに変わりはないのでどうでもいいのだが、間接的に世界の人口を減少させようとした罰として、懲らしめてやりたい気持ちはある。
俺が、どうしたものかと思案していると、
「覇王丸様」
「ん?」
我に秘策ありと言わんばかりの表情で、横からヒナが話し掛けてきた。
「ここはヒナたちにお任せください」
「……たち?」
複数形であることが気になったが、ヒナはその疑問に答えることなく、処刑人のごとくマキちゃんに歩み寄ると――――これ見よがしに左手を掲げた。
その薬指には、指輪が付けられている。
結婚の御祝儀として俺が受け取り、その後、無事に嫁全員の手に渡った結婚指輪だ。
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