墓参り 最後まで
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「そういえば、このことは二人には話すのか?」
俺が自分の腹を擦りながら尋ねると、ライカは逡巡した後、首を横に振った。
「いいのか?」
「はい。もし、違っていたら、ぬか喜びさせることになっちゃいますし……」
ライカも、自分の腹に手を当てながら、神妙な顔で呟いた。
「それに、話したら、多分、引き止められて、一緒に旅ができなくなると思うので」
「……ああ。そうだよな」
間違いなく、そうなるだろうな、と。
思わず、俺も神妙な顔をして頷いた。
もし、ライカが妊娠しているかもしれないと知ったら、ボルゾイとウォートランド侯爵は、大喜びすると同時に、あらゆる言葉を尽くして、ライカを引き止めようとするだろう。普通に考えれば、妊娠した娘が魔王討伐の旅に同行するなど、とんでもないことだ。
(ライカの母親も、妊娠している時にボルゾイと駆け落ちしたんだったな)
その時の無理が災いして、結果的に寿命を縮めることになったのかどうかは分からないが、ライカの母親は、娘の成長を見届けることなく早世している。であればこそ、尚更、ボルゾイはライカの旅を止めさせようとするだろう。恐らく、ウォートランド侯爵も同じだ。
困ったことに、俺はそんな二人の気持ちも理解できるから、余計に複雑なのだ。
「ライカは、旅を続けたいんだよな?」
「当たり前です」
少しだけむっとしたように口を尖らせて、ライカが睨み付けてくる。確認のためとはいえ、愚問だったようだ。
「覇王丸さんは、旅に出た時のことを覚えていますか?」
「覚えてるよ」
国王のラルフから呼び出しの手紙が届いて、俺とライカとハウンドの三人で、馬車に乗って王都に出発したのだ。思えば、あれが魔王討伐の旅の始まりだった。
「あれから、色々なことがありました。楽しかったことだけじゃなく、悲しかったことも」
「そうだな」
「全部、良い思い出です。この旅は間違いなく、私の人生を変える旅になりました。――――だから、私はちゃんと、この旅の終わりを見届けたいです」
覇王丸さんの隣で、と。
ライカが一切の迷いの無い顔で言い切ったので、
「分かった」
俺も覚悟を決めて頷いた。
――――一緒に旅をしてくれよ。
――――ずっと一緒だったじゃないか。
いつだったか、足手まといになることを恐れて、このまま旅を続けるべきか思い悩んでいたライカに、俺はそう伝えたはずだ。
よくよく考えれば、あの時の言葉が、俺からライカへの無自覚で遠回しなプロポーズだったのかもしれない。きっと、あの頃には、俺はとっくにライカのことを好きになっていたのだ。
(それなら、仕方ないか)
自分で言い出したことなら、俺にはライカを一緒に連れて行く責任がある。
何より、今のライカは足手まといではない。貴重な治癒魔法の使い手なのだ。ライカがいることで、救われる命がきっとある。
それならば、今、俺がすべきことは、ライカに留守番をするように説得することではなく、恥も外聞もなく、ライカの安全を確保することだ。
「世界が平和になるまで、あとちょっとだ。最後までよろしくな」
「はいっ」
俺は決意を新たにして、ライカと手を繋ぎ、笑い合った。
ボルゾイとウォートランド侯爵には、余計な心配を掛けたくないから、申し訳ないけれど、黙っていることにしよう。
その後、俺たちは残された時間を噛みしめるように、最終決戦前の余暇を楽しんだ。
そして、ヒナたちを乗せたオレサマが、大聖堂から帰ってきたタイミングで、俺たちも第一軍港に引き返した。
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