墓参り もしかしたら
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次回の更新は明日です。
翌日、俺、ライカ、ボルゾイ、そしてウォートランド侯爵の四人は、一緒に墓参りをした。
墓石に刻まれた故人の名は、シェイラ。
ライカにとっては母であり、ボルゾイにとっては妻であり、ウォートランド侯爵にとっては娘である女性だ。ウォートシエイラの町の名前の、由来になった人物でもある。
俺たちは墓前で手を合わせ、それぞれ祈りを捧げた。
(世界が平和になりますように。魔王軍との最終決戦で、仲間が誰も怪我をしませんように。……あと、ライカの胸が大きくなりますように)
故人と面識の無い俺は、フィオレの兄の墓参りをした時と同じように、思い付いたことを手当たり次第にお願いすると、目を開けて後ろに下がった。祈り終えたのは、俺が一番早かったようだ。
次に黙とうを終えたのは、ライカだった。
「もういいのか?」
後ろを振り返り、隣に移動してきたライカに声を掛けると、ライカは「はい」と頷いた。
「これで最後じゃないから、いいんです。戦争が終われば、いつでも会いに来られますから」
「それもそうか」
客観的に見ても、最終決戦前の墓参りは死亡フラグなので、心残りが無くなるまで祈るのは危険かもしれない。
「何を祈ったんだ?」
「魔王軍との最後の戦いを、見守っていてほしいということと、覇王丸さんが怪我をせずに、無事に帰ってこられますようにということと……」
「それと?」
「……あと、もう少しだけ大人っぽい体型になれますようにって」(超小声)
ライカは、最後の願いについては、前方で黙とうしている二人には聞こえないように、全神経を集中させなければ聞き取れないくらいの小声で呟いた。
「それは、壮大な願いだな」
「……どれのことですか?」
「安心しろ。俺も協力してやるから」
「嫌です」
そんなふうに、俺とライカが傍目には「イチャついてんじゃねーぞ」と言われそうな会話をしている間も、ボルゾイとウォートランド侯爵は真剣に祈りを捧げていた。
「侯爵様、随分と熱心に祈ってくださっていますね」
「そうだな」
不思議そうに呟くライカに、俺も同意する。
昨晩、ボルゾイと娘の思い出話に花を咲かせて、その翌日の墓参りなのだ。きっと、話したいことが山ほどあるのだろう。時間はいくらあっても足りないはずだ。
だが、ライカからすれば、ただの付き合いで同行してくれただけのウォートランド侯爵が、赤の他人の墓参りで、なぜ、あんなにも熱心に祈りを捧げているのか、不思議に思っているのかもしれない。
俺がそんなことを考えていると、
「侯爵様って、もしかして……」
ライカが、何かに気づいたように呟いた。
「どうした?」
「――――いえ。何でもないです」
だが、しばしの沈黙の後、ライカは頭に思い浮かんだことを言葉にせずに、飲み込んだ。
「気のせいでした」
「気のせいか」
「はい」
躊躇う素振りもなく、ライカが笑顔で頷いたので、俺はそれ以上、何も言及しなかった。
ウォートランド侯爵の口から、はっきりと「名乗り出るつもりはない」と聞いているので、俺がライカに真実を打ち明けることはできない。
でも、もし、ライカが自分で気づいたのであれば、そこから先はウォートランド侯爵が首を縦に振るか、横に振るかの問題だ。陽の当たる場所にまろびでた真実を、わざわざ俺の手で、藪の中に戻す必要は無いだろう。
(さっきの、惜しかったんじゃないか?)
ライカの「気のせい」が、実は「気のせい」ではなかったら?
あり得ないと決め付けずに、笑い飛ばされてもいいからと、口に出していたら?
二人の関係が、赤の他人から、祖父と孫に変わっていたかもしれないのに。
――――実に、勿体ないことだ。
(まあ、いいさ)
この先、チャンスはいくらでもある。
ウォートランド侯爵だって、年寄りなどと口にしているものの、年齢はゲンジロウ爺さんと同じくらいのはずだ。この世界の平均寿命がどれくらいなのかは分からないが、少なくとも、あと数年でぽっくり逝ってしまうことはないだろう。
ライカが子供を産んで、祖父のボルゾイと曾祖父のウォートランド侯爵が、交替で赤ん坊を胸に抱くような――――そんな未来が現実になる可能性が、まだ残されているのだ。
そのためにも、まずは魔王軍との戦争に勝利しなければならない。
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