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里帰り(大森林 ウォートシエイラの町 六)

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

「君はそこに、私を放り込むつもりだったのかい!?」


「もし、クビになったらの話だよ。――――ならないから、安心しろって」


 本音を言ってしまえば、トレンタ大陸で進行中の町作りにフランツが協力してくれるなら、大助かりではあるのだが……。さすがに、何も悪いことをしていない者を、罰ゲームよろしく身柄を拘束して、トレンタ大陸に連れて行くわけにはいかない。


「今日、侯爵がここにやって来たのは、別の目的があるんだ」


 そう言って、俺は「別の目的」の当事者である男に視線を移したが、


「……」


 ボルゾイは、ウォートランド侯爵の姿を確認した瞬間から、無言のまま硬直していた。


「父上……?」


「おいっ、しっかりしろ」


 事情を知らないライカが、不思議そうに父親の顔を見上げていたので、俺はボルゾイの肩を強めに叩いて、正気に返らせた。


「はっ!? 覇王丸、これはいったい……?」


「うん。今回、ウォートランド侯爵は、お前に会いに来たんだよ」


「そ、それは、つまり……?」


「そんなの、言われなくても分かるだろ」


 往生際が悪く、なかなか現実と向き合おうとしないボルゾイに、俺は真実を叩き付けた。


「昔のことで話があるってさ」


「……やはり、そうか」


 観念したようにがっくりと肩を落としたボルゾイを見て、ライカがますます困惑した様子で首を傾げる。


「父上? どうかしたのですか?」


「……できれば、孫の顔を見るまでは生きていたかったが」


「え? ……え?」


 しみじみと呟くボルゾイの告白に、ライカは視線をきょろきょろと彷徨わせて、挙動不審になる。ボルゾイにはまだ「妊娠しているかもしれない」ということを知らせていないはずなのに、それが既に伝わっていると勘違いをして、慌てているのだろう。


「ライカ……。私がいなくなっても、どうか元気で」


「父上!?」


 さすがに、ただごとではないと勘付いたライカが語気を強めたところで、


「それくらいにしておこう。そんな物騒なことをするつもりはないよ」


 ウォートランド侯爵も、ライカと同じことを感じたらしく、会話に割り込んできた。


「やれやれ。以前、覇王丸を通じて、君には手紙を送ったことがあったはずなのだが……」


「……侯爵閣下」


「まあ、直接、顔を会わせるとなれば、話は別か。――――久しぶりだな。君は、私のことを覚えているかね?」


 苦笑を浮かべながら質問するウォートランド侯爵に、ボルゾイは無言で深々と一礼する。


「父上と、侯爵様は、お知り合いだったのですか?」


「昔、少しだけね。彼は見ての通り白銀の美丈夫で、しかも、腕の立つ戦士でもあったので、彼を雇いたがる貴族は大勢いて、ちょっとした有名人だったのだよ」


「そ、そうだったのですね」


 ウォートランド侯爵の説明を聞きながら、ライカは平静を装って頷いたが、良く見ると口元はニヤついているし、頭の獣耳はピンと立っているし、尻尾もぱたぱたと動いている。自分の父親が褒められて、嬉しくて仕方がないようだ。


(相変わらず、感情が分かりやすいな)


 ライカの特徴の一つとして、喜怒哀楽がとても分かりやすいというものがある。頭の獣耳と尻尾の動きを見れば、感情の変化が一目瞭然なので、間違った対応をして余計に怒らせたり、悲しませたりすることを回避できるのだ。


(まあ、ライカの場合、ハグするだけで、機嫌は良くなるんだけど。……チョロいから)


 俺がそんなことを考えながらライカを観察している間も、ウォートランド侯爵はボルゾイに話し掛けていた。

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