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里帰り(大森林 ウォートシエイラの町 四)

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

 翌朝、俺たちは馬車に乗って、お忍びで視察に向かうウォートランド侯爵と共に、大森林に向かった。


 ワタシに乗って移動すればあっという間なのだが、最低限の護衛は随行させたいということで、護衛の兵士や従者共々、数台の馬車で向かうことになったのだ。


「君たちも、四六時中、私に付きっきりでは、気が休まらないだろう? 久しぶりの故郷だ。護衛の件は気にしなくてよいから、君たちは羽を伸ばしなさい」


 道中の馬車の中で、ウォートランド侯爵はそのように説明した。


(俺とハウンドは、久しぶりではないんだけど……)


 なにせ、先日の国際会議の前に、一度、帰省したばかりだ。むしろ、ホームシックなのではないかと、疑われてしまうかもしれない。


「俺は帰ったところで、特にすることも無いからなぁ。……この前、帰ったばかりだし」


 ハウンドも、俺と同じことを考えているらしく、腕組みをして思案顔になっている。


「自分の家の掃除をした方がいいですよ。ハウンドは一人暮らしなんだから」


 きっと埃だらけになっています、と。


 ライカが説教臭い口調でアドバイスすると、ハウンドはそれを鼻で笑い飛ばした。


「埃どころの騒ぎじゃねーぞ。俺の家、跡形もなくぶっ壊されていたからな」


「えぇっ!?」


「なんでだよ?」


 ハウンドの衝撃の告白に、ライカだけではなく、俺も驚いて聞き返した。


「ずっと前、ロザリアやヒナを連れて里帰りした時は、お前の家、たしか物置にされていたんだよな?」


「ああ」


 その家が、今は跡形もなく取り壊されているということは……。


「お前、とうとう、追放されたのか」


「違う」


「じゃあ、最初から「いなかった」ことにされたんだな? お前は、集落の汚点だから」


「違うわっ!」


 ハウンドは、すぐ隣にウォートランド侯爵がいることも忘れて、今にも噛み付きそうな顔で反論した。


「そうじゃなくて、俺の家が建っていた場所に道が通るから、取り壊されたんだよ」


「お前に無断で?」


「そうだよ」


 なんでも、町の入口から伸びる目抜き通りを、滑走路よろしく一直線に延伸する公共工事が、現在進行中らしい。執政官のフランツは、ハウンドが帰るまで家をそのままにしておくつもりだったようだが、住民たちが「その必要は無い」と主張して、さっさと取り壊してしまったのだそうだ。


「俺の家だから、無断で壊しても大丈夫とか、おかしいだろ?」


 どんな理屈だよ、と。


 ハウンドは不満そうに吐き捨てたが、隠れ里という特殊な環境で形成されたコミュニティの怖いところが、モロに出た結果だと言えるだろう。そのような環境下では、全員が家族同然の付き合いをしているため、私有財産と共有財産の境界が曖昧になるのだ。


 だから、たとえハウンドが一人で暮らしている家であっても、留守中は遠慮なく物置にされてしまうし、全体の利益のためならば、容赦なく取り壊されてしまうのである。


「でも、そういうことなら、後で新しい家を貰えるんじゃないか?」


「だといいけど」


「貰えなかったら……まあ、出て行けってことなんだろうな。ふふっ」


「なんで、ちょっとだけ嬉しそうなんだよ」


 笑ってんじゃねーぞ、と。


 ハウンドは吐き捨てたが、本当に追放されてしまうのではないかと気が気ではないらしく、大森林に着くまでの道中、ずっと落ち着かない様子だった。

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