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里帰り(大森林 ウォートシエイラの町 ニ)

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

「ベルレノも一緒に行ったのか。……まあ、一人で留守番するよりは良いのかもな。あそこは観光地としても有名みたいだから」


「うむ。……ワシも、できることならば、もう一度、大聖堂の風呂に入りたかったが」


「それが目的かよ」


 なんだか、他人の里帰りに便乗して、あちこちを観光して回ったり、日頃の疲れを癒したりしようとする仲間が、多いような気がする。短い余暇の使い方としては、それで正しいのかもしれないが。


「それじゃあ、俺たちも大森林に出発するか。ハウンドも連れて」


「はい。――――あの、ちょっとお聞きしたいことが」


 俺が話し掛けると、ライカは頷いた後、ふと思案顔になった。


「何だ?」


「気のせいかもしれませんけど……。フィオレさんが、少し元気が無かったような気がしたので、スエービルランス王国で何かあったのかな……って」


(鋭いな)


 俺が見る限り、フィオレの態度はいつもと変わらないように思えたが、目敏いライカの目には、意気消沈しているように見えたようだ。


 とはいえ、本当のことを話すわけにはいかない。酒を飲んで朝チュン未遂事件を起こしたことについては、フィオレから固く口止めされているからだ。俺としても、できることならば、冤罪で土下座はしたくない。


「そういえば、フィオレはどうした?」


「部屋で休むそうです。長距離の移動で疲れたみたいで……」


「ふーん」


 それも嘘ではないのだろう。馬車で移動すればたっぷり十日以上は掛かるだろう道のりを、竜の背に乗って一気に駆け抜けたのだ。移動中は落ちないように気を張っていなければならないし、疲労が溜まっていても不思議ではない。


 まあ、実際のところは、ライカに対する後ろめたさから居たたまれなくなり、長旅の疲労を言い訳にして、その場から逃避しただけだとは思うが。


「あいつの場合は、厳密には里帰りじゃなくて、兄貴の墓参りだからな。いろいろと昔のことを思い出して、感傷的になったんじゃないか?」


 俺は、フィオレの名誉と、己の保身のために、もっともらしいことを言って誤魔化した。


 お人よしのライカは、俺の取って付けたような言い訳を、完全に信じたようだ。


「何か、声を掛けるべきでしょうか?」


「いや。今は一人にしてやった方が、良いと思うぞ。あいつ、普段どおりに振る舞おうとしていただろ? それなら、気付かないふりをしてやるのも、優しさだよ」


「そういうものですか?」


「そういうものだぞ」


 きっと、俺たちが里帰りから戻ってくるまでには、しっかり気持ちを切り替えて、いつものフィオレに戻っていることだろう。


 何か声を掛けるのであればその時で十分だ、と。


 ここぞとばかりに、俺が畳み掛けて説得すると、ライカは納得した様子で「それもそうですね」と、素直に頷いた。


     *


 その日の午後、俺、ライカ、ハウンドの三人は、里帰りをするべく、第一軍港を出発した。


 大森林は、俺にとっても「始まりの場所」になる。地球から無理やり転移させられて、夜の森のど真ん中に排出された俺は、たまたま大森林の集落に隠れ住んでいたライカたちに保護されて――――そこから、すべてが始まったのだ。


 だが、そんな思い出の場所に帰省する前に、立ち寄るところがある。


 俺たちは大森林を迂回して、ウォーサラームの町に向かった。


 ウォーサラームは、アルバレンティア王国の西部地域を統括する大貴族、ウォートランド侯爵のお膝元の町でもある。


「覇王丸さん、どうしてここに?」


 寄り道することを伝えた際、ライカは不思議そうに首を傾げていたが、そう思うのも当然だろう。この町に観光目的で滞在していたマキちゃんとベルレノは、現在はヒナの里帰りに付き合う形で大聖堂にいるはずなので、迎えに行く必要は無い。ライカからすれば、この町に立ち寄る理由が無いことになるのだ。

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