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里帰り(スエービルランス王国 朝チュン未遂事件 四)

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

「なんで、こっちに戻ってくるんだよ!」


「だって! 仕方ないじゃない!」


 どうやら、完全にパニックに陥っているようだ。


 状況を考えれば、動揺するのは当然のことだが、それを差し引いても、フィオレは想定外の事態に弱いという欠点がある。


「もう、訳が分からない……。死にたい……」


「死ぬんじゃねーよ」


 羞恥心に打ちのめされて、すっかりイジけてしまったフィオレに、俺は「気にするなよ」と気休めにもならない言葉を掛けた。


「そもそも、昨日のことは、どこまで覚えてるんだ?」


「……晩さん会で、お酒を勧められたところまでは覚えているけど」


「綺麗さっぱり忘れたな」


 都合の悪いことは何一つ覚えていないという、酔っ払いとしては百点満点の忘れ方だ。


「私、何をしたの?」


「話してもいいけど……。聞いたら、また死にたくなるぞ」


「死なないから教えて」


 どうしてもとフィオレが言うので、俺は昨晩の出来事を掻い摘んで説明した。


「……貴方が、別の部屋に変えてもらえば良かったんじゃないの?」


「突き詰めるとそうなんだけど、いろいろと間が悪かったんだよ。使用人の女の人はすぐにいなくなっちゃうし。お前に説教されて、ヘコんでる皇太子のところに、文句を言いに行くのも気が引けたし」


 それに、たとえ同部屋でもベッドは別々なので、俺が変な気を起こさなければ大丈夫だろうという、甘い見通しがあったことも事実だ。


「鬼人の島にいた時は、お前やマキちゃんとも同じ部屋で寝起きしていたからな。部屋を変えてもらうのも面倒だし、まあいいか……って」


「……もういいわ。起きてしまったことは、どうしようもないし」


 フィオレは深々とため息を吐いた。


「私にも半分くらい落ち度はあるし」


(半分?)


 結構、がっつりと過失の割合を押し付けられたような気がするが、フィオレの名誉と体裁のためには、反論しない方が良いのだろうか?


「それと……。できれば、この質問はしたくないのだけれど……」


「何だよ?」


「その……。越えてはいけない一線は……越えていないわよね?」


 フィオレは念押しするかのような口調で、俺を睨み付けてきた。明らかに「お前は首を縦に振ればいいんだ」と言わんばかりの表情だが、だからといって嘘は吐きたくない。


「多分な」


「多分……って、どういうことよ?」


「少なくとも、俺が寝落ちするまでは、越えていなかった」


 ただし、フィオレがわざわざ全裸になり、こちらのベッドに潜り込んできてからのことは、俺には知る由も無い。一線を越えていないのか、一戦を交えたのかは、藪の中だ。


 まあ、俺の着衣に乱れが無かったので、多分、恐らく、大丈夫だとは思うが。


「もし、越えていたとしても、犯人はお前だぞ」


「犯人呼ばわりしないで」


 フィオレは開き直ったようにして言い返すと、寝ころんだままベッドの上でくるくると回転して、俺から奪い取った毛布を自分の体に巻き付けた。


「とにかく、私は服を着るから。貴方は、目を閉じていなさい」


「そうしてくれ」


「それと、このことは、くれぐれも他言無用で」


 約束を破ったらただではおかない、特にライカに話したら殺す、と。


 フィオレは、本気としか思えないような覚悟を決めた表情と声色で、俺に厳命した。


 その後、身だしなみを整えた俺たちは、朝食の席で「昨日はどうだった?」と言わんばかりの笑顔で話し掛けてきた皇太子に怒涛のクレームを入れると、午後には帰路についた。

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