里帰り(スエービルランス王国 朝チュン未遂事件 三)
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(この魔力痕、治せないのかな)
俺は、フィオレを起こさないように手を伸ばし、魔力痕に指で触れてみた。勿論、やましい気持ちとか、エロい気持ちは、一切介在していない。本当に。
かさぶたのように表面がザラついているかと思いきや、表面は滑らかだった。手触りとしては、皮膚と変わりはない。ただ、色だけが不自然に黒ずんでいる。フィオレの肌は日焼けしたような褐色だが、それでも判別できる程度には目立つので、見た目の印象としては傷口ではなく、刺青という言葉の方がしっくりくる。
「あ。霊薬を使ったらどうかな」(ふにふに)
ふと思いついて、声に出してしまったが、すぐに魔力痕が完全に消えることはないだろうと思い直した。
多分、胸に焼き印を刻んだ直後ならば、霊薬による治療は有効だったかもしれない。
だが、今では、もう時間が経ち過ぎている。フィオレの魔力痕は、既に症状が固定しており、これ以上は良くならない状態だ。言いかえれば、今が「怪我をしていない状態」なのである。
「難しいか……。試す価値はあると思うけど」(ふにふに)
問題は、治らなくても命に別状はなく、また、治るかどうかも分からない古傷の治療に、希少品である霊薬を使ってもよいのかという点だ。フィオレの性格を考えると、間違いなく固辞するだろう。
それに、もし、魔力痕が消えた場合、フィオレの魔法使いとしての実力が、少なくとも、魔力痕で底上げされている分については、失われてしまうというリスクがある。今が魔王軍との最終決戦の前であることを考えると、これもまた難しい問題だ。
どうにかならないものか、と。
俺がしかめ面をしながらフィオレの魔力痕を撫でていると、いつの間にか寝息が聞こえなくなっており、見れば、フィオレが羞恥心からか、怒りからか、ぷるぷると震えていた。
(あ、やべ……)
いったい、いつから目を覚ましていたのだろうか?
寝起き直後のポンコツ状態であれば、何を言われても「全部、夢だぞ」で押し通せるかもしれないが、様子を見る限り、そんな感じではない。
「……えーと。起きてるか?」(ふにふに)
恐るおそる、俺が話し掛けると、フィオレは錆ついた機械人形のように緩慢とした動作で、顔を上げた。
怒っているようにも見えるし、恥ずかしがっているようにも見えるし、泣きべそをかいているようにも見える。絶妙に判別しにくい表情だ。
「……怒ってる?」(ふにふに)
「まずは、胸を触るのを止めなさい」
「はい」
やはり、注意された。もしかしたら、見逃してもらえるのでは……? と、何の根拠も無く期待していたのだが、全然、そんなことはなかった。
「普通、こっちが起きていると分かった時点で止めるでしょう?」
「いや。そこで止めると、やましい気持ちがあったと認めることになる」
「やましい気持ちは無かったと?」
「無い。――――無いから、何も問題は無い」
「問題はあるわよ」
居直り強盗と化した俺を見て、フィオレは不満そうに口を尖らせたが、それ以上の追及はしなかった。言っても無駄だと諦めたのかもしれないし、大事の前の小事であると判断したのかもしれない。
「それよりも、まず……。これは、いったい、どういう状況なのかしら」
「俺にも分からないけど……。多分、お前が夜中に目を覚まして、裸になって、こっちに潜り込んできたんだと思う」
「は?」
フィオレは、俺の言葉に驚愕した様子で、毛布の中でもぞもぞと動きはじめた。
「なんで!? なんで、こんなことになっているの!?」
どうやら、自分がパンツすら穿いていない素っ裸の状態であることに気がついたらしい。
「貴方が脱がしたの!?」
「やっぱり……みたいな顔をして、俺を見るのはやめろ! お前が自分で脱いだんだよ!」
「嘘よ」
「嘘じゃない」
あれを見ろ、と。
俺が背後にあるベッドを指し示すと、疑わしげな表情のまま体の向きをくるりと反転させたフィオレは、毛布と一緒に丸まっている下着を見て、
「なんで!?」
何を思ったのか、毛布から這い出て、下着を回収した。
当然、全裸で這い出したものだから、尻と背中が丸見えになっている。
「馬鹿! お前、裸で出たら……」
「きゃぁぁぁぁっ!」
俺に指摘されて現状を把握したフィオレは、何を思ったか、俺のいるベッドに……というか毛布の中に戻ってきた。
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