里帰り(スエービルランス王国 朝チュン未遂事件)
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明日です。
(それは、フィオレも同じか)
最後の勇者に人生をめちゃくちゃにされたフィオレは、天涯孤独の身の上だ。
フィオレはしっかり者だから。
凄い奴だから。
頭の良い奴だから――――寂しくない?
――――そんなことが、あるものか。
兄のブラトからも、フィオレは強がりで、泣き虫で、寂しがり屋だと教えてもらったはずだ。
普段は気を張っているフィオレが、今、この瞬間だけはしっかり者の仮面を外して、誰かに甘えることができているのであれば、それを茶化すことは、俺にはできない。
「ねぇ……。ずっとこうしていたら……もしかして、疲れたりする?」
「平気だよ」
変なことで気を遣わなくてもいい、と。
俺は笑いながら、優しく語り掛けた。
「……本当に、眠るまでこうしていてくれる?」
「ああ」
「死ぬまでこうしていてくれる?」
「どうした急に」
突然、重たいことを言いはじめたフィオレの言葉に、俺は少しだけ面食らったものの、
(……よく考えたら、酒を飲んでいるんだった)
酔っ払いの話が飛躍することなど、別に珍しいことではないと思い直した。
「そうだなぁ。ぶっちゃけると、死ぬまでは難しいかな。魔人のお前の方が、俺よりも長生きするだろうし」
「それなら、貴方が死ぬまでは可能ということね?」
(酔っぱらっていても、そこはロジカルに詰めてくるのか……)
客観的に見るとタチの悪い酔っ払いだが、ある意味、フィオレらしくもある。
「……まあ、いいか。俺が死ぬまででいいなら、お前が酔っぱらった時くらい、こうして手を繋いでいてやるよ」
「本当? ……約束よ?」
「ああ。その代わり、酔っぱらっていない時は、お前が、ライカやヒナを護ってくれよ?」
「そんなの……当たり……前でしょ……」
酒を飲んで、ベッドに横になり、頭から毛布を被ったフィオレは、俺と話しているうちに、ウトウトしはじめたようだ。
俺は何度か繋いだ手の指に力を込めてみたが、最初は返事をするようにぎゅっと握り返してきたフィオレの指が、ある時を境に、反応しなくなった。
(……眠ったみたいだな)
俺はしばらく様子を見た後、そっと手を放して、隣にある自分のベッドに寝転んだ。
(マルマルの奴、今日も連絡してこないのか。……まあ、あいつも里帰り中だもんな)
当面は、世界管理機構で使われている神代文字の解読に専念するため、連絡は緊急時だけにすると言っていたので、この場合は「便りが無いのは良い便り」なのだろう。
それに、フィオレと同室にいる現場をマルマルに目撃されるのは、弱みを握られるようなものなので、むしろこれは好都合だと言える。
(それよりも、問題なのは――――)
俺は、夜になっても眠くなりにくい体質を利用して、遅くまで考え事をしていたが、長旅の疲労(心労)もあったのか、いつの間にか眠りに落ちていた。
*
翌朝、俺は体に違和感を覚えて、目を覚ました。
(んー?)
体調が悪いというわけではない。頭は働かないものの、それは起きて間もないことが原因であり、頭痛がするわけではない。
(どちらかと言えば、体が重いような気がする)
特に右半身が動かしにくい。というか、何か柔らかいものが当たっているし、ほのかに良い匂いもする。
(……嫌な予感がする)
首だけを動かして隣のベッドに目をやると、案の定、そこはもぬけの殻だった。
次に、今度は左腕を動かして、体に掛かる毛布を少しだけ捲ってみると……。
(……やっぱり)
そこには、抱き枕よろしく、俺の体にしがみ付くようにしながら眠っているフィオレの姿があった。
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