里帰り(スエービルランス王国 失言と勘違い)
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「ふふっ。フィオレさんも。お元気そうでなによりね」
「……失礼。ご無沙汰しております。ウースタイン卿もお変わりないようで」
見られたくないところを見られてしまったとばかりに、フィオレはそそくさと居住いを正して、畏まった挨拶を返した。
「時に、覇王丸さん」
「ん?」
「フィオレさんのことを、きちんと支えてあげられていますか?」
「支えて……? うーん……。どうかな」
モーティナからの質問に、俺はすぐには返答できなかった。
フィオレのことは、勿論、家族同然の近しい仲間だと思っているし、それなりに気に掛けているつもりではあるが、きちんと支えているかと問われると、いまいち自信が無い。
フィオレは、仲間内ではゲンジロウ爺さんと双璧を成すレベルの「頼りになる存在」なので、俺が支えてもらっていることは、間違いないのだが。
「どちらかと言えば、フィオレには助けてもらうことの方が多いからな。もしかすると、迷惑を掛けている割合の方が多いかも……」
「――――ご心配なく」
チラチラと横目で顔色を窺いながら回答する俺を遮るように、フィオレが口を開いた。
「迷惑だとか、そんなふうに思ったことは無いから」
「本当に? 俺の視線とか、露骨だなって思ったことも無いか?」
「それはあるけど」
「あるのか」
俺はショックを受けて、がっくりと肩を落とした。
今まで、バレないように注意ながら、さりげなく胸を見ていたつもりだったが、どうやら、フィオレには気づかれていたらしい。この分では、ロザリアやベルレノにもバレている可能性が高そうだ。
だとしたら、かなりカッコ悪い。
「その件については、改善策を講じるつもりだから、時間がほしい」
「それは、今、ここで話すべきことなの?」
見なければいいだけの話でしょう? と。
フィオレは苦言を呈したが、はっきり言って、何も分かっていない。
これは、そんな単純な問題ではないのだ。
三大欲求の一つである性欲の否定は、人間性の否定と同義なのである。
特に、俺は覚醒状態に深入りしすぎたせいで、夜になっても眠くならないし、腹も減らないという、食欲と睡眠欲の二つを克服した――――言ってしまえば、人外の化け物になりかけている状態なので、性欲は「人間としての俺」に残された最後の砦なのである。
「俺は、自分の欲望と真摯に向き合うつもりだ」
「勝手にすればいいと思うけど」
そんなことを大真面目に言われても困る、と。
フィオレは呆れたようにため息を吐いた。
そんな俺たちのやり取りを見て、モーティナは安心したように微笑んだ。
「仲良くしているようで、良かった。フィオレさんの居場所は、ちゃんと覇王丸さんの近くにあったのね」
「そりゃ、居場所はあるよ。仲間なんだから」
「ふふ……。信頼できる仲間ができて、本当に良かったわねぇ」
その言葉は、もしかしたら、俺ではなく、フィオレに向けられたものだったのかもしれないが、俺は「まあな」と返答した。
「フィオレは、いつだって頼りになるよ。――――ただ、朝、起きたばかりの時は、そうでもないけど」
一見すると、あらゆることをソツなくこなす完璧超人のフィオレだが、低血圧のため、起床してから意識がはっきりするまでの時間帯は、平時のマキちゃんを下回るポンコツになる。
俺は、軽い冗談のつもりでそう言ったのだが……。
――――ざわっ、と。
俺の発言を受けて、波が引くように周囲の雰囲気が変わった。
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