里帰り(スエービルランス王国 再訪と再会)
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
翌日、ゲンジロウ爺さんにオレサマを預けると、俺とフィオレはワタシに乗って、隣国のスエービルランス王国に向かった。
事前に国王のラルフに用件を伝えておいたので、国境を通過する際も検問を受けるどころか、地上に降りる必要すら無く、砦の上空を素通りすることができた。
そのまま一直線にスエービルランス王国の王都に向かい、フィオレの兄の墓参りをする前に城に挨拶に行くと、案内されたのは玉座の間ではなく、応接室だった。
そこには、見知った顔が揃っていた。
一人目は、日焼けした壮年の男。戦時中は、俺たちが素通りした国境の砦を防衛する任務に就いていた将軍のゲミュート。
二人目は、老婆。ウースタインという町の執政官を務めている伯爵のモーティナ。
三人目は、この中では最も下座の位置に座っている男。商人のヴィペラ。
この三人は、以前、俺とフィオレとマキちゃんが、最後の勇者と決着をつけるためにスエービルランス王国に乗り込んだ際に、協力してくれた人たちだ。
もっとも、ゲミュートに関しては、国境の砦を通過する際に案内役として強引に連れ去ったという経緯があるため、最初から協力的だったわけではないが。
応接室にいたのはこれで全員ではないが、ひとまず、俺は三人に挨拶することにした。
「よっす。おっさん。久しぶり」
「……お前は相変わらずだな」
俺が軽く手を掲げて挨拶すると、ゲミュートは呆れたようにため息を吐き、
「ヴィペラも。元気にしてたか?」
「お陰さまで。この国の未来のために、日々、自分にできることに励んでおります」
ヴィペラは深々と頭を下げた。
そして、杖を使ってゆっくりと立ち上がり、俺に向かって笑顔で手を広げたモーティナに、俺は満面の笑みを浮かべて抱きついた。
「婆ちゃん、久しぶりだな! 会いたかったぞ!」
「覇王丸さん、私も会いたかったですよ」
モーティナの背中に手を回して、ぽんぽんと優しく叩く。
「我々の時と、あまりにも態度が違わないか……?」
「そこは、ウースタイン卿の人徳のなせる業でしょう」
後ろで薄味の対応をされた二人が、愚痴ともやっかみともつかない会話をしているが、特に興味も無いので聞き流すことにする。
「婆ちゃん、元気だったか? あれから、体調を崩したりしていないか?」
「ええ。おかげさまで。毎日、忙しくさせてもらっていますよ」
「もう少しで、魔王軍との戦争が終わるかもしれないんだ。それまで、元気でいてくれないと困るからな」
「凄いわねぇ。さすがは、覇王丸さんだわ。私も長生きしないといけないわねぇ」
モーティナはうんうんと嬉しそうに頷きながら、俺の頭を撫でようとしたが、手が届かないので、代わりに頬を擦るように撫でてくれた。
「先日の国際会議でも、大活躍だったらしいわね?」
「まあね。最終的には出席者を片っ端から殴って、無理やり言うことをきかせるつもりだったけど、そうなる前に、話が上手くまとまったんだ。運が良かったよ」
へらへらと笑いながら、しれっと国際問題待ったなしの発言をした俺の言葉に、
「……何やら、恐ろしいことを口にしていますね」
「うむ。あれで「いつもどおり」なのだから大したものだ!」
三人からは少し離れた位置――――上座に着席している四人目と五人目が、感嘆した様子で口を開いた。
四人目は、俺やフィオレと同年代の男。この国の皇太子だ。
そもそも、俺たちが城を訪れたのは、この男に挨拶をするためなのだから、この場にいるのは当然だと言える。
先日の国際会議が閉会した後にも、時間を取って話す機会があったのだが、まだ国王ではなく、皇太子の身分のままのようだ。たとえ父親である現国王が、最後の勇者によって廃人同然にされており、意識が戻らないままだとしても、存命のうちは……ということらしい。
そして、この国の実質的な統治者である皇太子の隣に座っている最後の五人目は、軍人ではないにも関わらずこの中で最もバイタリティに溢れ、俺に次ぐ体格の持ち主でもある男。
先日の国際会議では「話が上手くまとまった」流れを作ってくれた恩人でもある、ヴリント王国の国王ヴェンだった。
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