獣人の隠れ里
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翌朝、牢の中で目が覚めた俺は、山賊のおっさんが運んできた朝食を食べた後、里長であるライカの父親から呼び出されたということで、やっと、牢の外に出ることができた。
「お嬢が平気だと言うから拘束はしないけど、変な気を起こしたりするなよ」
「分かった分かった」
不安そうな顔をする山賊のおっさんを適当にあしらいつつ、大きく伸びをする。
目の前に広がっていたのは、見るからに森を切り開いて作ったという感じの、町と呼ぶには小さすぎる集落だった。
除草して踏み固めただけの一本道があり、それに群がるように、簡素な造りの家が建ち並んでいる。
木造の小屋が多いのは、当然と言えば当然だろう。
俺が閉じ込められていた牢は、斜面を登った所に作られた氷室を改造したものだったので、外に出るとすぐに集落を一望することができた。この辺りは丘陵になっているようだ。
「思っていたよりも、しょぼい集落だな」
「お前っ! そういうこと、ボルゾイ様の前では絶対に言うなよ!?」
「分かった分かった。全員、動物……じゃなくて獣人なんだな」
集落には、既に何人かの人影を見ることができる。
そのすべてが獣の耳と尻尾を生やした、ライカと同じ「獣の血が薄い」獣人だった。
「おっさんみたいな人間はいないのか?」
「いる……というか、昨夜、お前を担いで、集落まで運んだ連中がいただろう? あいつらは全員、ただの人間だよ」
「ふーん」
「まあ、人間は俺たちだけだよ。此処は獣人の隠れ里だからな」
「……」
何やら訳ありの様子だが、俺としては興味が無いので、踏み込んだ質問はしない。
『いや、質問しろよ』
(……ちっ。もう起きてきやがった)
頭の中に山田の声が響いたので、俺は思いっきり顔をしかめた。
『舌打ちをしたいのは、こっちですよ。もう、丸二日も家に帰っていないんですから』
結局、昨夜はあれから明け方近くまで話し込んでいたため、山田は二日連続の泊まり込みとなったのだ。
(ろくに眠っていないんだろう? 今日はもう帰ってもいいんじゃないか?)
『そういうわけにはいきません。でも、さすがに仮眠は取るかも……。覇王丸さん、今日は問題行動を起こさないでくださいよ』
(心外すぎる)
昨日に関して言えば、俺をトラックで轢き殺そうとしたり、ブラックホールのようなものに飲み込ませたり――――問題行動を起こしていたのは、むしろ山田の方だ。
『それよりも、覇王丸さん。めちゃくちゃ注目されてますよ』
「あ?」
山田に指摘されて周囲を見回すと、さっきまで人通りもまばらだった集落には、人だかりができていた。二十人くらいだろうか。
多くの獣人が遠巻きに俺を眺めては、近くの者と小声で何事か囁き合っている。
俺が視線を向けると、皆、一様に目を逸らし、逃げるように立ち去ってしまう者もいた。
「おっさん。もしかして、俺、怖がられてるの?」
「当たり前だろ。お前、デカすぎるんだよ」
「また、鬼人か何かと間違えられているのか」
俺には、鬼の角も牙も生えていないというのに。
こう何度も間違えられると、うんざりするのと同時に、いちいち訂正するのが面倒になってくる。
『大きなものに恐怖を感じるのは、人類の共通感覚ですよ。特に覇王丸さんは、平均的な成人男性よりも、頭一つ分は背が高いですからね。面と向かい合って話す時に、首が痛くなるほど見上げなければいけない相手というのは、やはり怖いと思いますよ』
(よく分からん)
『まあ、覇王丸さんは見下ろす側ですからね。見上げる側の気持ちは分からないでしょう』
俺と山田がそんな話をしていると、目の前の人だかりが急に左右に分かれた。
「こりゃあ、たまげたな。本当に鬼人みたいにデカいじゃねぇか」
そして、人だかりの間から、悠然とした足取りで、黒くて巨大な人影が歩み寄ってきた。
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