ヒナはいただいた。公式見解も撤回しろ(無理筋)
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「どういうことだよ?」
「この世界に召喚されてからというもの、覇王丸さんを探して、一緒に旅をするというのが、ヒナの目標だったのです。そのために、人一倍の努力もしました。今では魔法も習得し、神聖教会内では聖女と呼ばれているほどなのですよ」
そんなヒナの気持ちを無下にはできない、と。
法王は困ったような顔で笑った。
きっと、本音ではヒナを手放したくないのだろう。
それは当然のことだ。
勇者は人類の希望になり得る存在なのだから、自陣に引き入れようとするのならともかく、手放そうとするなどあり得ない。
だが、そんなことよりも、俺は法王の何気ない一言にショックを受けていた。
(魔法を習得した……だと? ヒナが? まだ十歳だぞ?)
『十歳児に敗北する十六歳児』
山田の辛辣な言葉が、俺のショックに追い打ちをかける。
どうやら、ヒナはゲンジロウ爺さんと同じ感覚タイプの魔法使いのようだ。
感覚というか、コツすらまったく掴めない俺としては、羨ましい限りである。
「このことは明日の会談でも話すつもりなのですが――――恐らく、神聖教会側からは、反対する者が出てくると思われます」
「だろうな」
俺が当然とばかりに頷くと、ゲンジロウ爺さんが難しい顔をして腕を組んだ。
「それはちと困ったことになるの」
「何が?」
「こちらの要望はただでさえ無理筋なのに、もし、そんなことになったら、聞く耳すら持ってもらえなくなるかもしれん」
たしかに、ヒナを連れて行くことは俺たちにとってはメリットしかないので、その上で更に公式見解を撤回しろと要求するのは、かなり無理筋だろう。
「それなら、逆にヒナを連れて行かれたくなければ、こっちの要求を飲めと脅してみるか」
「あの、覇王丸様。猊下がいらっしゃいますので、脅すとかそういう言葉は……」
若干引きつった笑顔を浮かべるロザリアに、やんわりと説教された。
「法王様は、俺たちの……というか、俺の要求は分かっているのか?」
「そうですね。ロザリアから事前に知らされています」
「それで、どうなんだ?」
俺がストレートに尋ねると、法王は困ったように俺から目を逸らした。
「難しいですね。仮にヒナの件がなかったとしても、受け入れることは難しいと思います」
「法王の一存で決められないのか?」
「自治領内でも、獣人のことでは少々厄介な問題を抱えているのです。あまり、他国の方には知られたくない話なのですが……」
そう言うと、法王は隣に座るヒナを一瞥した。
「ヒナはそれが何なのか知っているのか?」
「はい。ヒナは知っています!」
「俺が知りたいと言ったら、話してくれるか?」
「勿論です! ヒナは話します!」
ヒナは俺に頼りにされて嬉しいと言わんばかりに、満面の笑みで頷いた。
一方、法王は「でしょうね」と言いたげに、ため息をついた。
「分かりました。少しだけ内情をお話しします。このことはどうかご内密に」
そう言うと、法王は神聖教会の自治領内で起きている獣人がらみのある問題について説明を始めた。
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