誰でも受け入れるわけではない
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「息子の俺が言うのもなんだけど、親父は絶対にそんな馬鹿な真似はしない。今回の竜の巣への侵攻だって、魔王の命令じゃなければ、親父は動かなかったはずだからな。要するに、砦まで避難しちまえば、本国は手出しできなくなるんだ」
「たしかに……。本隊は、そうかもしれませんが……」
住民の代表が危惧しているのは、竜の巣の脅威についてだ。
魔王軍の本隊が手出しできなくなる代わりに、竜の巣から攻撃されてしまうのでは、むしろ危険度は増してしまい、何の意味も無い。
だが、ジェニオはまた、そんな住民の不安を笑い飛ばした。
「竜の巣についても、何も問題無い。後ろを見れば分かるだろ?」
そう言って、ジェニオが指さした先には、身じろぎせずにその場で待機しているワタシと、その背中で休憩しているライカとヒナの姿がある。
「理屈は知らねーけど、人間の勇者は竜と会話ができるんだ。だから、覇王ま……そこにいるアホみたいな大男が、竜の巣と話をつけてくれた。武装せずに、砦の近くに住むだけならば、竜の巣は干渉しないってさ」
「別に名前で呼べばいいだろ。なんで、わざわざ言い直したんだよ。しかも、悪口っぽく」
先程、ジェニオのことを「変な奴」と言ったことに対する仕返しだろうか? だとしたら、人としての器が小さいと言わざるを得ない。
「そういうことで、いいんだろ?」
「……そのとおりだよ」
まったく悪びれる様子の無いジェニオに、俺は仏頂面で頷いた。
ジェニオの言うとおり、この件に関しては、既に竜王や四聖竜にも伝達済みだ。
住民たちも、百聞は一見にしかずと言わんばかりに、ライカとヒナを背中に乗せて、じっとしているワタシが目の前にいるため、一応、納得せざるを得ないといった感じだ。厳密には、ワタシは竜の巣に所属する竜ではないのだが、今、打ち明ける必要は無いだろう。
俺はジェニオと交代して、詳しい説明を続けた。
「ただ、条件が二つある。一つは、こいつも言っていたけど、武装しないことだ。竜の巣は魔王軍を敵視しているし、魔王軍以外の人間のことも警戒しているから、もし、武装していることがバレたら、その時点で「約束を破った」と見なされて、攻撃対象になる」
ナルヒェンを筆頭に飛翔魔法の得意な竜が、定期的に周辺地域を巡回しているため、怪しい動きを見せれば、すぐにバレてしまうはずだ。
武装しているかどうかは竜が独自に判断するため、ここまでならば大丈夫という明確なラインは存在しないし、下手をすると、匙加減でアウトにされてしまう恐れもある。理不尽かもしれないが、竜の巣の警戒網の内側に町を作らせてほしいという話なのだから、これくらいの条件は受け入れるべきだろう。
あくまでも、人類は、竜の巣から「見逃されている」だけ。
お目こぼしで「生かしてもらっているだけ」なのである。
これくらいの関係から始めなければ、この先、人間と竜が適度な距離感を維持して共存することはできないだろう――――モースとの一件を経て、俺はそのように判断した。
「でも、心配する必要は無い。それは裏を返せば、武装なんかしなくても、安全が保障されるということなんだ。竜の巣から監視されている限り、魔王軍の本隊も、人類軍も――――要するに、武装した集団は砦に近づけないってことだからな」
避難者は、竜の巣の抑止力のおかげで、外部からの攻撃を心配することなく、平和に暮らせるということだ。
そういう意味では、武装「できない」ではなく「する必要が無い」と考えることもできる。いずれにしても、戦争が嫌で本国から逃げ出した住民たちにとっては、受け入れ難い条件ではないはずだ。
むしろ、難色を示す者が多いのは、もう一つの条件のような気がする。
「それで、二つ目の条件なんだけど。――――実は、俺たちは、お前らの他にも行き場が無い人たちに、同じように声を掛けて回るつもりなんだ」
「はあ……」
そうですか、と。
住民の代表は、当たり前のことのように、俺の言葉を受け入れかけたが、
「その中には、竜の巣の周辺に住んでいた普通の人間も含まれている。というか、何人かは、既に砦に避難している」
「!?」
次の言葉を聞いて、たちまち表情を強張らせた。
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