一面の花畑
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門番の兵士に見送られて門を通り抜けると、外壁に隠れていた大聖堂の全容を見ることができた。
だが、俺たちが目を奪われたのは大聖堂ではなく、その手前に広がっている庭園だった。
大聖堂へと続く道の両側に、色とりどりの花が植えられている。
「うわぁぁぁぁ……」
ライカが目をキラキラさせながら、食い入るように窓を覗き込んでいる。
「これは圧巻だの」
「そうだな」
「喜んでいただけたなら、何よりです」
群がるように窓を覗き込んでいる俺たちを見て、ロザリアは嬉しそうに微笑んだ。
「季節ごとにちゃんと計算されて、花が植えられているんです。いつ訪れても奇麗な庭園が出迎えてくれるんですよ」
「庭師を雇っているのか?」
見れば、神聖教会の関係者っぽくない作業姿の人たちが、あちらこちらで水やりや草取りに精を出している。
「いえ。彼らは地元の住人でしょう。善意で手伝ってくれているのだと思います」
「そりゃそうか」
よくよく考えれば、近隣の住民など、神聖教会の敬虔な信徒に決まっている。
わざわざ人を雇わなくても、一声かければ善意の手伝いなどホイホイ集まるはずだ。
俺がそんな不信心なことを考えていると、ロザリアは庭園に何かを見つけたらしく、御者に言って馬車を止めさせた。
「すみません。知っている方を見つけたので、少しだけお待ちいただけますか?」
「いいぞ」
「ありがとうございます。すぐに戻りますので」
そう言って、ロザリアは馬車を降り、顔見知りがいる所に歩いていく。
そして、座り込んで作業をしている一人の男に声をかけ、親しげに言葉を交わしはじめた。
どうやら、その男だけは聖職者の服を着ているようだ。
「誰であろうな?」
ゲンジロウ爺さんが疑問を口にした。
「誰って、知り合いだろ?」
「ただの知り合いなら、わざわざ馬車を止めてまで挨拶には行かんだろう。一応、我々は来賓で、しかも、ロザリア様は王族なのだぞ」
「まあ、それはそうか」
たしかに、今のロザリアの行動は、俺たちではなく神聖教会側にとって体裁の悪いものかもしれない。
なにしろ、到着したばかりの来賓が、挨拶回りをしているのだから。
「ロザリア様がそのあたりのことを理解していないとも思えんし、やはり、それなりの身分の御仁なのだろうな」
「でも、偉い人が土いじりなんかするか?」
俺としては、そっちの方がむしろ違和感がある。
結局、直接本人に尋ねた方が早いという結論に至り、俺たちは馬車に戻ってきたロザリアに質問をぶつけた。すると、
「あの方はブレーグ枢機卿です」
という答えが返ってきた。
「覇王丸様、ジョアンから聞いた話を覚えていますか? トレンタ大陸に渡った顧問団が……」
「魔王軍の獣人部隊に襲われて壊滅したってやつか?」
「はい。ブレーグ枢機卿はその顧問団の数少ない生存者なのです」
つまり、神聖教会が獣人に対する公式見解を出すきっかけになった事件の当事者だ。
ある意味、俺が最も力を入れて説得しなければいけない人物かもしれない。
「今回の会談には、ブレーグ枢機卿も同席をすることになると思われます」
「まあ、そうだろうな」
「ですが、私は立場上、表立って覇王丸様の味方をすることができません」
「それは分かっている」
俺としても、そこまでしてもらおうとは考えていない。
神聖教会側と話をする機会を作ってくれただけでもありがたいのに、護衛付きで同行までしてくれたのだから、ロザリアには感謝してもしきれないほどだ。
だが、ロザリアはそれだけでは足りないと考えたらしい。
「なので、先程、枢機卿にご挨拶をさせていただくついでに、少しだけ先手を打たせていただきました」
「何か言ってくれたのか?」
「はい。覇王丸様が父上に爵位と領地を要求した時のことを引き合いに出して、覇王丸様の人となりを事前に説明させていただきました。同じことは法王猊下にも親書でお伝えしてあります」
だからご安心ください、と。
ロザリアはにっこり笑ったが、俺は複雑な心境だった。
「……それは、大丈夫なのか?」
むしろ、引き合いに出してはいけない部分の情報を、神聖教会側に伝えてしまったような気がする。
「爺さんは、どう思う?」
「……まあ、途中で危険人物だと分かるよりも、最初からそうだと分かっていた方が、心証を悪くせずに済むのではないか?」
「危険人物は確定なのか」
「危険人物というか、要注意人物だの」
ゲンジロウ爺さんは少し考えて訂正したが、何のフォローにもなっていなかった。
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