治癒魔法の習得条件
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戦場において、負傷者の存在は「味方の士気が下がる」「薬や食料を継続的に消費する」「見捨てることができない」など、大きなデメリットをもたらす。
だが、回復薬があれば、負傷者が翌日には全快して、前線に舞い戻ることもあり得るのだ。戦線を維持するという点において、回復薬の果たす役割はチート級だと言える。
そして、神聖教会が治癒魔法の習得方法を秘匿しているため、未だに魔王軍には治癒魔法を使える者が一人もいない。これも、今後の戦局を占う上で、人類軍に有利な要素になるだろう。
よくよく考えれば、魔法など使えなかったライカがいつの間にか治癒魔法を習得していたのに、魔法の得意な魔人が誰も習得できないというのは、実に不思議な話だ。
(俺の仲間で、治癒魔法を習得したのは、ライカと、ヒナと、ソレイユか)
この三人の共通点と言えば、やはり、神聖教会と関わりがあることだろうか? もっとも、ライカの場合は、治癒魔法を習得した後で、カムフラージュとして信徒になっただけなので、それ以前の関わりと言えば、大聖堂に何日か滞在したことがあるくらいなのだが。
大聖堂に滞在することが鍵なのだとすれば、枢機卿に変装して、何年も大聖堂の中枢に潜伏していたブレーグが習得できなかったことも、不自然な気がする。
(……ま、何かあるんだろうな)
ブレーグは満たすことができなかったが、ライカやヒナや、ソレイユは満たしていた条件があるのだろう。それが何なのかは、俺には分からない。
「まあいいや。朝、昼、晩と、食事の時にでも、少しずつ飲んでくれよ。……そういえば、食糧の備蓄はあるのか?」
「あ、はい……。食糧庫は、なぜか、襲われなかったので……」
「ふーん」
つまり、軍の襲撃を受けて、建物を破壊されたものの、食糧はあるので、取りあえず飢えることはないし、安全な場所に避難することもできる――――そういうことらしい。
(ヤバいな)
どうやら、ジェニオが言っていたとおり、魔臣宰相は俺たちの作戦を完璧に理解した上で、行動しているようだ。マジで、作戦の読み合いで勝てる気がしない。
「なら、良かったじゃないか。薬を飲んで、飯を食って、後は家族で寄り添って一緒に眠れば、明日には元気になっちまうよ」
「……ありがとう……ございます……」
俺の言葉を受けて、女は緊張の糸が切れてしまったのか、ボロボロと涙を零し、言葉を詰まらせながら、礼を言った。
「他にも、怪我人や病人がいたら手を挙げてくれ。全員は無理かもしれないけど、できる限り対応する。そうしたら、後ろにいる変な奴の話を聞いてやってくれよ」
「誰が変な奴だよっ。俺よりお前の方が、遥かに変だろっ」
ジェニオがすかさず反論するが、言い終わるよりも早く、俺の周囲でちらほらと住民の手が挙がりはじめた。
「足を捻ってしまって……」
「祖父が高齢で、食欲が無いと……」
「おう。順番にな。状態が深刻な奴から、二人に診てもらうから」
俺が住民の対応をしながら「ちょっと待っていろ」と目配せをすると、ジェニオは不満げな表情を浮かべながらも、おとなしく引き下がった。
「おかしいだろ」
お前は何もしてねーのに、とか。
なんで、取りまとめ役みたいになっているんだよ、とか。
背後から、ジェニオの恨み節のような愚痴が聞こえてきたが、俺は特に気にしなかった。
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