クモの糸
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明日です。
「あれから、人は増えていないのか? 畑仕事に詳しい奴がいないと、効率が悪いぞ」
「周辺の集落を探しまくって、生き残った奴らが避難している場所は、何ヶ所か見つけたけどさ。魔人の俺が行っても、怖がらせるだけで、説得は無理だろ」
お前らが説得してくれよ、と。
ジェニオが自信無さそうなことを言ったので、俺は呆れて脇腹を小突いた。
「駄目もとで話してみればよかったじゃねーか。意外にヘタレだな」
「うるせー。こういうのは、最初が肝心なんだよ。お前みたいに神経の図太い奴なんか、滅多にいねーぞ」
「なんだぁ? てめぇ」
「やんのか? ああん?」
俺とジェニオがガンを飛ばし合いながら、互いに肩をぶつけて威嚇しはじめると、
「あの……二人とも。そろそろ、止めましょうね? 他の人たちも、見ていますし」
ライカから遠回しに「見っともないから止めろ」と注意されてしまった。
気づけば、砦の入口付近には、騒ぎを聞きつけて様子を見にきたと思われる、数人の兵士の姿があった。
*
休憩を挟んだ後、日帰りで行けそうな集落があるということで、俺、ライカ、ヒナの三人にジェニオを加えたメンバーは、再びワタシの背に乗って、北上していた。
「いやぁ。いいねぇ。揺れないし、風も無いし、最高じゃないか」
生まれて初めて竜に乗ったというジェニオは、かなりご満悦な様子だ。
「乗り心地が最悪な竜もいるけどな」
「いつだったか、お前が乗ってきた竜だろ? この前の戦闘の時もいたよな? まあ、速さを優先すれば、快適じゃなくなるのは仕方ないさ」
どうやら、ジェニオは話を聞いただけで、すぐにナルヒェンのことだと察したらしい。それだけ、ナルヒェンの飛行速度は、ジェニオにとってインパクトが強かったようだ。
「この竜だって相当だぞ? こんなに快適なのに、第三の兵士が使う飛翔魔法よりも、遥かに速いんだから」
「そういえば、砦に兵士がいたけど……。なんでだ?」
「ん?」
俺の記憶違いでなければ、砦に滞在していた第三方面軍の兵士は、アロガンと一緒に本国へ帰ってしまったはずだ。
「――――ああ。数人だけ残ったのと、後は追加で本国から派遣されてきたんだ。多分、兄貴の報告を受けて、親父が寄こしてくれたんだと思う。それでも、十人くらいだけどな」
全然、人手が足りねーよ、と。
ジェニオは楽しそうに笑いながら、文句を言った。
「ま、それでも助かっているよ。なんだかんだ、一人であちこちを偵察して回るのは、しんどかったし」
「じゃあ、魔臣宰相は、俺たちの作戦の意図を理解していると思っていいのかな?」
「そのへんの察しの良さに関しては、親父は化け物だからな。完璧に理解していると思うぜ。今、向かっている集落の情報も、兵士の一人が持ち帰ったものだけど。――――もう、第三が動いた後だったらしい」
「げ」
ジェニオの報告を受けて、俺は思わず絶句してしまった。
いくらなんでも、早すぎる。タイミングとしては、アロガンから報告を受けて、即断即決しなければ間に合わないくらいの早さだ。
「お前の親父、敵に回すとマジで厄介だな」
「親父も同じことを考えていると思うけどな。……ま、おかげでこっちが動きやすくなったのは、確かだ。嫁さんを連れて来た、お前の判断も正しかったのかもな」
ジェニオは、俺の腕の中にすっぽり収まっているライカとヒナを見やった後、忌々しそうに顔をしかめて「イチャつきながって」と吐き捨てた。
今、俺たちが向かっているのは、魔王領の北部にある集落だ。
山脈の裾野に点在する集落の一つであり、そこは戦争反対を標榜する征龍候の考えに賛同して、第二方面軍と合流するために(あるいは、その庇護下に入るために)移動してきた軍人や民間人の臨時拠点になっている場所でもある。
ジェニオから聞いた話では、その拠点が、つい先日、第三方面軍の攻撃を受けたらしい。
集落だった場所は、ほぼ壊滅状態。負傷者も多数。
そんな地獄のような場所に、俺たちはクモの糸を垂らしに行くのだ。
(別に俺たちは仏じゃないし、糸を登った先が、極楽とも限らないけどな)
征龍候を追い詰めるために、俺が考えた次の一手は、反乱を起こした第二方面軍を内側から切り崩し、動揺させて――――あわよくば自滅させることだった。
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