神代文字
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
夜。山田の仕事部屋に呼び出されて、今後の作戦について色々と打ち合わせた後、ちょうど思い出したので、俺は紙とペンを借りて、そこに文字を書いた。
「何ですか?」
「いいから見てろ」
さらさらとペンを走らせて書いた文字は、マルマルが違法な手段を用いて盗み出した勇者の個人情報――――その中でも、マキちゃんの年齢の欄に書かれていた謎の言葉だ。
「……どうして、覇王丸さんがこれを?」
俺やマルマルにとっては意味不明だった文字列を見て、山田は驚いたように息を飲んだ。
「お前の知っている言葉なのか?」
「知っているというか、これは神代文字ですよ。第一世代の天使が使っている言葉です」
山田は眉をしかめながら、俺の書いた文字を何度も見直して、間違いないと呟いた。
先日、マキちゃんも似たような趣旨の発言をしていたので、この言葉が世界管理機構で使われている言葉だというのは、本当なのだろう。
「なんで、覇王丸さんが神代文字を書けるんですか?」
「俺が書けるのは、それだけだ。最後の勇者が持っていたメモに、そう書かれていたらしい」
「どういうことですか?」
「この前、国際会議に飛び入り参加しただろ? その時に、スエービルランス王国の皇太子から教えてもらったんだ。最後の勇者が使っていた部屋を調べたら、謎の言葉の書かれたメモが見つかったんだってさ」
俺は涼しい顔をしながら、この時のために考えておいた嘘を吐いた。
すべての罪と責任を、最後の勇者に擦り付けてしまう「死人に口無し」作戦だ。
「そんなことが、あったんですか?」
「会議が終わった後に、ちょっとな」
会議中、俺は、汚染された魔力を垂れ流す魔王が、どれほど危険な存在であるかを理解してもらうために、百聞は一見にしかずということで、ごく短時間ではあるが、議場で覚醒状態を披露している。山田との通信はその時に切断されているため、俺がありもしないエピソードをでっち上げたとしても、その真偽を確かめる術は存在しないのだ。
もっとも、山田はアホなので、俺の説明をまったく疑っていない様子だった。
「それで、その言葉の意味を教えてほしいんだけど」
「分からないですね」
「は?」
山田があまりにもあっさりと首を横に振ったので、俺は面食らってしまった。
「嘘だろ? 知っている言葉じゃないのか?」
「見る機会は多いですけど、読めるかどうかは別ですよ。そもそも、神代文字は第一世代の天使しか使わない言葉なんです。第二世代の僕たちにとっては、殆ど暗号みたいなもので」
「古い言葉なのか?」
「神代なんて言うくらいですから。古いでしょうね。使われなくなったという意味では、地球で言うところのラテン語に近いと思います」
そう言うと、山田は自分の使っているデバイスを指さした。
「僕たちが使っているデバイスは、あらゆる言語を自動で翻訳してくれるんです。話し言葉に関しては、翻訳の奇跡があるので困りませんし」
ただ、いまだに第一世代の天使は、機密文書や公式文書に神代文字を使うのだという。
「口語としては死んでいるけど、文語としては生き残っているって感じか」
「そうですね。まあ、デバイスを経由することで、自動的に翻訳されちゃいますから。文語としても、事実上、死んでいるようなものですけど」
「なるほど」
つまり、マルマルが自作のPCを使わず、担当の守護天使のデバイスを使っていたら、自動翻訳機能が働いて、すべての勇者の個人情報を丸裸にすることができたというわけだ。当然、十一人目の勇者の正体も、突き止めることができただろう。
そして、神代文字が使われていることで、勇者の個人情報に関するデータを作成したのが、第一世代の天使であることも確定したわけだが……。
(第一世代ってことは、結構なお偉いさんだよな?)
もしかすると、マルマルはかなりヤバいところに侵入して、パンドラの箱の中からデータを盗み出してしまったのではないだろうか? 犯行が発覚した時のペナルティが想像できないので、はっきり言って、とても怖い。
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