獲物が罠にかかるのを待つだけ
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明日です。
「お前の実力も大概だな」
「す、すみばせんっ……!」
ベルレノは泣きながら謝ったが、別に責めているわけでも、咎めているわけでもない。
「私が、水の魔法があまりにも得意だから……!」
「そうそう。そういうことだよな」
やはり、ベルレノは少しくらい図々しい方が、見ていて安心する。
そのまま、しばらくすると、護衛船団の一隻の船から煙が立ちのぼった。火災が発生したわけではなく、狼煙の一種のようだ。
「撤退するみたいね」
風に吹かれて空に広がっていく赤い煙を眺めながら、フィオレが冷静に呟いた。
「勝負ありか」
「いやー。圧倒的だったね。さすがヨキさん」
マキちゃんがまるで自分の手柄のように、ヨキを褒め称える。
「まあ、そうだな。結局、姿すら見せずに船を一隻、沈めちまったもんな」
渦潮が消えて、転覆した船の周辺では、海に投げ出された多くの兵士が救援を求めている。海水の温度が凍る寸前まで下げられているはずなので、一刻も早い救助が必要だろう。
「これを、何度も繰り返せばいいんだよね?」
「そうだな」
何度か同じことを繰り返せば、第二方面軍はオース海峡で暴れている竜がかなり強いという事実を、否応なく理解するはずだ。
実はここにも、ちょっとした罠を仕掛けている。
海水を凍らせて、船体に付着させるという戦い方が、ヨキと戦った際に、ラハムの取った戦法と酷似しているのだ。
重要なのは、第二方面軍(独立派や征龍候)の目線では、ラハムの死亡はまだ確定情報ではないということ。
別の竜と戦っていたという目撃情報を最後に、消息を絶っているのだから、推定死亡の扱いにはなっているかもしれない。
だが、その後、ヨキをラハムと勘違いした調査隊が「ラハム生存」の情報を持ち帰っているはずだし、そもそも、それらの情報すら、本物の征龍候の耳に入っていない可能性もある。
いずれにしても、確実に死んだと断定できない状況下で、ラハムを彷彿させる戦い方をする「やたらと強い竜」がオース海峡に現れたら、征龍候が「もしかしたら」と思ったとしても、何も不思議ではない。
タイミング的にも、鬼人の島でラハムが姿を消した時期と、オース海峡にやたらと強い竜が現れた時期は、連続しているはずだ。
人類軍の船を襲撃する行為についても、征龍候からの指示を自ら遂行しようとしていると考えることもできるし、単純に人間が嫌いだから襲っていると考えることもできる。
つまり、オース海峡に現れた竜がラハムだとしても、辻褄は合うのだ。
こうなってしまえば、後は、征龍候が「自分の目で確かめよう」とするかどうかだけ。
いずれにしても、海戦でヨキを討ち取るつもりなら、半端な戦力を投入しても、返り討ちにされてしまうのがオチだろう。
このまま延々と、戦力を逐次投入する愚を犯すのか。
いっそ、人類軍との共闘をすっぱり諦めるのか。
それとも、業を煮やした征龍候本人が、直々に出張ってくるのか。
どんな結果になるのかは、分からない。
俺たちにできることは、得物が罠に掛かる瞬間を、じっと待つだけだ。
「悪いけど、次からはマキちゃんが通訳として、人類軍とヨキの橋渡しをしてくれるか」
「うん、いいよ」
「それで、何かあったら……特に無くても、なるべく小まめに報告してくれ」
「了解」
俺の頼みに、マキちゃんとフィオレが、それぞれ力強く頷く。
「わ、私は、何をすれば……」
「ベルレノは……そうだな。もし、二人が海に落ちたら、助けてやってくれ」
「分かりました!」
俺から役目を与えられたベルレノは、鼻息を荒くして意気込んだ。
ベルレノを連れてきた理由は、有事の際、海戦で最も実力を発揮できる仲間がベルレノだからなのだが、できることならば、俺が不在の時にそのような事態にはなってほしくない。
「覇王丸君はどうするの?」
「俺はちょっと、トレンタ大陸ですることがあるから、行ったり来たりになると思う」
正直、交渉や調整はガラではないし、得意分野というわけでもないのだが、竜の巣をはじめ各方面に最も顔が利くのが俺なので、俺が動かないわけにはいかないのが現状だ。
幸いなことに、体力面の不安は無い。覚醒さえしなければ、俺の体は不眠不休の活動にも、恐らく、耐えられてしまうからだ。
「くれぐれも無理はしないようにね」
「大丈夫だって。体力には自信があるからな」
「だとしても、よ。しっかり休憩だけは取りなさい。いいわね?」
「おう」
珍しく、真っ先に心配するような言葉を掛けてくれたフィオレに、俺は笑顔で頷いた。
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