第二方面軍VSヨキ
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「ソロソロ、私ガ出ヨウ。魔王軍ノ兵士ノ動キガ、少シズツ洗練サレテキタ。コノママデハ、返リ討チニサレテシマウカモシレナイ」
そう言うと、ヨキは海中に潜り――――
「うわぁ……」
ややあって、第二方面軍の船が、遠目に見ても分かるほどの荒波に揉まれはじめた。
「おっと」
「ひゃあ!」
「ひっ」
余波で人類軍の船も大きく揺れたが、俺が欄干を掴んで踏ん張ると、それを見たベルレノとマキちゃんは、欄干ではなく俺にしがみ付いて、なんとか堪えようとした。
「フィオレは大丈夫か?」
「問題無いわ」
見れば、フィオレは飛翔魔法で少しだけ空中に浮かび上がり、既に船の揺れを物ともしない対策を取っていた。
「お前、自分だげ……」
「別にいいでしょ」
俺に見咎められたフィオレは、気まずそうに、ぷいと顔を背ける。
「……あ、そっか。お前、乗り物に弱いもんな。竜に乗って移動した時とか、意外にも」
「知らないわね。それより、余所見をしていていいの?」
もう決着がついたみたいよ、と。
フィオレに言われて、俺が視線を海に戻すと、
「げ……」
突如、海面に発生した渦潮が、今まさに第二方面軍の船を海中に引きずり込もうとしているところだった。船体が大きく傾き、船首が上を向いてしまった第二方面軍の船は、光を反射して、キラキラと輝いているように見える。
「なんか、魔王軍の船、光ってない?」
「凍っているみたいです」
マキちゃんの疑問に、すぐさまベルレノが回答した。単純に目が良いのか、それとも、同じ水の魔法の使い手(達人レベル)なので、経験則と直感で理解したのだろうか?
ベルレノの説明によると、魔法の力で海水温度を限界まで下げているので、船体に掛かった波の飛沫がそのまま凍って付着してしまい、どんどん船が重くなり、重心も移動して、転覆しやすい状態になっている……とのことだ。
そうするようにヨキに依頼したのは、実は俺なのだが。
(そんなことをされたら、勝てるわけがないよな)
第二方面軍は、魔王軍の中では事実上の海軍として機能していた軍隊だ。
所属の兵士の大半は、水の魔法を得意としており、海中での戦闘もお手の物だったはず。
だから、死に物狂いで抵抗されるならいざ知らず、戯れに海峡で暴れているだけの竜を追い払うくらいならば、数隻の船を護衛船団として差し向ければ事足りるだろうと。
征龍候は、楽観的に考えていたのかもしれない。
だが、第二方面軍の船がのこのこと現れた海域で待ち構えていたのは、竜の巣の最高戦力である四聖竜の一角、通称「激流のヨキ」(本人非公認)なのだ。
竜の巣の最高戦力と比べてしまったら、人類軍と第二方面軍の実力差など、誤差の範囲内でしかない。
現に、ベルレノの故郷である鬼人の島では、独立派はラハムの力を借りなければ、島の周囲で発生する不規則な海流を、鎮めることができなかった。激しい海流の中で泳ぐことのできる兵士はいたが、海流そのものを無力化できる兵士はいなかったのだ。
つまり、自然災害レベルの渦潮を、いとも簡単に作り出すことのできるヨキに、真っ向から対抗できる兵士は、第二方面軍には殆どいないことになる。
もし、この渦潮に対処できる者がいるとしたら――――それこそ、影武者ではない本物の征龍候だけではないだろうか?
「なあ。ベルレノならあの渦潮を、どうにかできるか?」
なんとなく疑問に思って、俺が尋ねると、ベルレノは困ったような顔をして、前方の渦潮をじっと見つめた。
「……あれは無理です」
「だよな」
「弱くはできると思いますけど」
「できるんかい」
わりと冷静に、無力化はできないが、弱体化はできるという答えが返ってきた。
だとすると、もし、ベルレノが第二方面軍の船に乗っていたら、渦潮を水の魔法で部分的に相殺して、船が転覆することだけは回避できたのかもしれない。
そして、ベルレノにできることは、当然、征龍候にもできるだろう。
目の前の圧倒的な光景を見ていると、現実味の無い話に聞こえてしまうが、かつてラハムが第二方面軍に敗れたことを考えれば、あり得ないことではないのだろう。
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