征龍候の誤算
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だが、結果的に合意は成立せず。すべての人類国家が共闘に前向きな姿勢を見せるものの、トレンタ大陸への派兵は困難であるという見解を示すに至った。
理由は、いまだにオース海峡では、竜の姿が目撃されているから。
過去に襲撃事件も起きていることを考えると、竜に対処するには、人類軍の海上戦力は不十分であり、軍隊を輸送するための航行の安全が確保されているとは言いがたい。
そのように言われてしまったら、征龍候としては納得するしかない。
ラハムに依頼して、その配下の竜をオース海峡で暴れさせ、人類軍の航行の自由を妨害した張本人が、他ならぬ征龍候なのだから。
心当たりがある以上、犯人には話の真偽を疑うことができないのだ。
それでも、ラハムが今も生きていれば、再び指示を出して、部下の竜をオース海峡から引き揚げさせればよいのだから、事は簡単だった。
だが、既にラハムは、ヨキに討ち取られている。
そして、ラハムがいなくなった後、配下の竜がどのような行動を取るかについては、誰にも予測できないことだ。
実際には、ラハムの死を境に、オース海峡での竜の目撃件数は明らかに減っており、今では殆ど発生しなくなっているのだが――――それは、征龍候には知る由も無いのである。
ここで活きてくるのが、人類国家が「共闘には前向きだった」という事実だ。
明確に拒絶されていたら、見切りの早い征龍候はさっさと次の手に移行していただろう。
だが、人類国家が共闘に前向きな姿勢を見せたことで、征龍候は「オース海峡の問題を自力で解決してしまえばよい」という方向に舵を切った。
その結果――――
*
「本当にやって来ちゃったねー」
甲板から身を乗り出すようにして、前方を眺めながら、マキちゃんが呑気に呟いた。
俺たちの視線の先には、海上で竜と戦闘を繰り広げている(襲われているともいう)船団の姿がある。船に乗っているのは、いずれも第二方面軍の兵士であり、船も第二方面軍に所属するものばかりだ。
オース海峡における航行の安全を確保するため、征龍候は自前の護衛船団を派遣してきた。
第二方面軍の船がオース海峡を巡視して、あるいは人類軍の船を護衛することで、この海域における竜の脅威を取り除こうというのだ。
「ここで人類軍の協力を取り付けないと、第二方面軍はジリ貧に近い状態になるからな。必死にもなるだろ」
俺たちは、人類軍の船に乗って、第二方面軍が竜と戦っている様子を、少し離れた場所から見物している。勿論、第二方面軍の兵士に見つかったらマズいので、船室に隠れておとなしくしていたのだが、竜との戦闘が始まったタイミングで、甲板に出てきたのだ。
ちなみに、俺とマキちゃんの他に船に乗り込んだ仲間には、フィオレとベルレノがいる。
「もし、これで魔王軍が勝ったら、オース海峡は安全ってことになっちゃうの?」
「いや。一度、勝ったくらいじゃ、ならないだろ」
同じことを何度も繰り返して、竜に襲われたり、竜を目撃したりする機会が無くなったら、そこで初めてオース海峡は安全になったと言うことができるはずだ。
「まあ、勝てるわけがないんだけどな」
「だよねー」
マキちゃんとそんな会話をすると、俺はフィオレに合図を送った。
そして、明後日の方向に向かって、大声で呼び掛ける。
「おーい。そろそろ行った方が良いんじゃないかー?」
「ソウダナ」
ややあって、誰もいないと思われた海から、ヨキの声が返ってきた。
フィオレの風の魔法を使えば、人類軍の船からかなり離れた位置で待機しているヨキとも、簡単に会話ができるので、とても便利だ。
今、第二方面軍と交戦しているのは、ヨキが竜の巣から連れてきた若い竜だ。
ヨキ曰く「戦闘経験が不足している未熟者」らしい。
「竜の巣としてではなく、個人的に手伝うとか言ってなかったか? モースあたりに、一人で海峡を見張るのは無理だって言われたんだろ?」
そう言って、茶化した俺の言葉に、
「実戦経験ヲ積ムニハ、第二方面軍ハ良イ相手ナノダ。イズレハ、コイツラニモ竜ノ巣周辺ノ海域ヲ護ッテモラワナケレバナラナイ」
ヨキは気まずそうな素振りも見せずに、いけしゃあしゃあと答えた。
つまり、ヨキは個人として俺の手伝いをするついでに、後進の育成という、四聖竜としての仕事も片付けてしまおうと考えているようだ。なかなか、図太い性格をしている。
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