集落になっているかもしれない
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「だからぁ……。お前さぁ。一応、こいつらは敵なんだから、なんで簡単に執務室まで連れて来ちゃうんだよ」
室内に通された俺たちを出迎えたのは、げんなりした様子のアロガンと、しかめ面で兵士を叱責するジェニオだった。
「まあ、そう言うなって。こっちには、敵対する意思は無いんだから」
「そんなもん、状況しだいで、いくらでも変わるものだろ」
ずかずかと室内に足を踏み入れて、自分の家のように接客用のソファに腰掛けた俺を見て、ジェニオが憎々しげに言い返した。
「――――そこの、連れの女性は?」
「俺の仲間」
入口の扉の所であたふたしているマキちゃんを見ながら、アロガンが尋ねてきたので、俺は手招きをして、マキちゃんをソファの隣に座らせた。
「名前はマキちゃん。俺と同じ勇者だよ」
「勇者が二人も……」
アロガンは眉間にシワを寄せて唸ると、おもむろにジェニオに話し掛けた。
「なあ。勇者二人の首を、閣下への手土産にすることは可能か?」
「……素手の殴り合いで、こいつに勝てるなら可能だよ。こんな狭い部屋じゃ、戦闘になった瞬間に、逃げる間もなく、魔法を封じられちまうけどな」
俺には無理だ、と。
ジェニオは無遠慮な足取りで俺の対面に回り込むと、ソファに深々と腰掛けた。
「閣下って、魔臣宰相のことだよな? 無事だったのか」
「親父が簡単に死ぬわけねーだろ。逃げ足の速さは、魔王軍一だぞ」
「逃げ足ではなく、飛翔魔法の速さだ」
ジェニオの言葉に、アロガンがすかさず訂正を入れる。
あの時のフェデルタは、魔王を庇った状態で、俺に殴られた後、モースの火の魔法の直撃を受けていたから、かなりの重傷だったはずだ。命からがらではあったが、どうにか安全圏まで逃げ切ったらしい。
「お前の怪我は? もう、怪我は大丈夫なのか?」
俺が尋ねると、ジェニオは大仰に肩をすくめて見せた。
「あれから何日も経っているからな。さすがに治るわ」
「そうか。良かったな。……俺なら、あの程度の怪我、その日のうちに治るけど」
「お前と一緒にするんじゃねーよ」
お互いに軽口を叩き合い、言葉が途切れると、ジェニオはおもむろに天井を仰ぎ見て、ため息を吐いた。
「――――まあ、何にせよ。お前ら、運が良かったよ」
「何が?」
「俺たち、明日にはここを離れて、本国に帰る予定だからな」
「そうなのか?」
どうやら、俺が心配していたとおり、無人の廃墟になる一歩手前だったようだ。
「あれ? でも、さっき、砦の前で土を耕している奴がいたけど」
「この砦は、避難してきた奴らに、くれてやることにした。一応、雨風は凌げるし、俺たちがいなくなれば、備蓄の食糧も当面は持つだろうからな」
「随分と優しいじゃん」
「……優しくなんかねーよ」
そう答えるジェニオの声には、怒り、後悔、自虐、そのどれとも受け取れるような、複雑な感情が込められていた。
「元々は、この近くで暮らしていた奴らなんだ。行く当てもないし、生まれ育った土地を離れたくないって言われたら、そうするより他に無いだろうが」
「何年かしたら、ここがデカい集落になっているかもしれないぞ?」
「ははっ。ぜひ、そうなっていてほしいね」
神妙な顔で、小馬鹿にするような空笑いをすると、もう前置きはいいだろうと、ジェニオは俺たちを真っ直ぐに見据えた。
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