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畑仕事

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

 当然ではあるが、第三方面軍の砦は半壊した状態のままだった。


 前回、訪れた時から、何日も経過してしまっている。既にもぬけの殻になっている可能性も考えたが、砦の前には、一生懸命に土を耕している人影があった。


 ワタシを上空で旋回させてから、地面に着陸させると、せっせと土を耕していた男は、鍬を投げ捨てて一目散に逃げようとした。


「待て、待て! 俺だ。敵じゃない」


「へ……。あ、ゆ、勇者様……?」


「そうそう。久しぶりだな。あれから、どうだ? 何かおかしなことは、あったか?」


 俺が尋ねると、男は少しだけ落ち着きを取り戻した様子で、首を横に振った。


 よく見れば、男は魔人ではなく、普通の人間のようだ。ということは、第三方面軍の兵士の生き残りではなく、故郷の集落を追われ、砦に避難してきた者だろう。


「いえ。特には……」


「そうか。ジェニオは? まだ、ここにいるか?」


「はい」


「会える?」


「恐らくは……」


 矢継ぎ早に質問する俺に応対しながら、男はちらちらと背後のワタシを観察していた。


 ――――いや。観察というよりは、警戒なのだろう。


 竜の軍勢に故郷を徹底的に破壊されたのだ。竜という生き物そのものに、トラウマ級の恐怖心を植え付けられたとしても、何も不思議ではない。


 俺はワタシに、離れた位置で待機しているように指示を出した。


「ごめんな? 怖かっただろ?」


「い、いえ……」


「お前らのことを攻撃した竜は、説得して竜の巣に連れて帰った。魔王軍が懲りずに、もう一度、竜の巣を攻めたりしなければ、この辺がまた戦場になることは、多分、もう無いと思う」


 俺が、目の前の男に保証してやれる平和など、「多分」と「だと思う」で装飾された仮初のものでしかない。これでは、安心どころか、気休めにもならないだろう。


 俺は地面に投げ捨てられた鍬を拾い、男に手渡した。


「畑でも作っていたのか?」


「はい。食べ物は、どうしても必要ですし。他にすることも……。行く当ても無いですから。でも、慣れていないから、土が固くて……はは」


「そりゃ、砦の近くの地面なんか、踏み固められているから当然だろ。畑を作るなら、もっと砦から離れた場所に作った方が良いんじゃないか?」


 俺はその場にしゃがみ込むと、地面に手を着いた。


(山田、ごめんな。昼飯から帰ってきたばかりなのに)


『え? 何がですか? はお――――


 返事を待たずに、覚醒状態になる。そして、間髪入れずに土の魔法を使った。


 次の瞬間、俺を起点にして前方十メートルほどの範囲内の土が、見る見るうちにボコボコと掘り返された状態になった。鉱人の里でシュヴァイクザームカイトが第四方面軍と戦っていた際に、周囲の土を手当たり次第に掘り起こして、魔王軍の足止めをしていたが、その時とほぼ同じ状態だ。


「わっ! 凄いね」


 一部始終を見ていたマキちゃんが、通りすがりの一般市民のような感想を口にする。


「これで、耕しやすくなっただろ?」


「は、はい。ありがとうございます……」


「石とかゴミを取り除いて、水捌けの良さそうな場所を畑にするといいぞ」


 覚醒状態をすぐに解除して、軽い立ち眩みを、地面に着いた両手で支えながら、男に畑作の助言をする。


「水捌けが悪いと駄目なの?」


「育たない野菜が多い。畑も田んぼも土が命だぞ」


「覇王丸君が農家みたいなことを言ってる……」


 マキちゃんが驚いたような眼差しを向けてくるが、俺は正真正銘、農家の息子だ。自慢じゃないが、三時のおやつが大根だったこともある。


「後は、石灰とか、堆肥とか、化成とか、色々あるんだけど。ホームセンターが無いから、どうすればいいのか分からないな」


「堆肥って、家畜のフンでしょ? ふりかけみたいに畑に撒けばいいんじゃない?」


「センスが独特すぎるんだよ」


 うんこをふりかけに例えるとか、食事の時に思い出したら、どう責任を取ってくれるのだろうか。


 その後、俺とマキちゃんは、様子を見にやって来た兵士に事情を説明して、砦の中に案内してもらった。

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