魔王について説明しろ
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
「ですから、覇王丸さんが混乱しないように、情報を小出しにするつもりだったのは本当なんです。許してください」
患部に応急処置を施した後、山田は体を縮こまらせながらソファに座り、魔人についての情報を秘匿していた理由を弁明した。
「僕たち天使の陣営としては、悪魔の陣営に与する勢力が世界を支配してしまうことが問題なわけでして。魔人が人間かどうかは、あまり関係ないんです」
「最初からそう言えばいいんだよ」
「覇王丸さんのいるオット大陸には、魔人は殆どいないんですよ。だから、そのへんの説明は後でもいいかなと」
「いいかな、じゃないんだよ」
俺はソファに寝転がりながら、山田に文句を言った。
ちなみに枕にしているのはリリエルの太ももだ。
いわゆる膝枕だが、遠慮なく頭を乗せているので、ソファに正座しているとはいえリリエルはかなりの重さを感じているだろう。
「覇王丸お兄ちゃん……そろそろ足が痺れて……」
「限界まで痺れたら、俺が指で触って悶絶させてやるから楽しみにしておけ」
「ひぃぃぃぃぃっ!」
痺れた足を指で突きまくるという処刑方法を言い渡されたリリエルは、半泣きで山田に助けを求めたが、今の山田は完全に心が折れているので無駄なことだ。
「これに懲りたら、もう兄貴の片棒なんて担ぐんじゃないぞ」
「うん。もうお兄ちゃんのことは信じないから……。一生、恨みながら生きていくから」
「そこまでしなくていい。……どんだけ許してほしいんだよ」
山田の妹なだけあって言動が極端だが、十分に反省しているようなので、俺は膝枕をやめて起き上がった。
「山田、魔王について教えろ」
「はい。えーと、魔人たちの王で、トレンタ大陸にあるエガリテルヴァンジュ王国を治めています。魔人の特徴は、ほぼ全員が魔法を使えることで、刺青のような痣が浮かび上がっている者ほど魔法が得意だと言われています。魔王はその中でも別格で……まあ、ぶっちゃけると、勇者の特性を持っているんですけど」
「何だ。同じ勇者かよ」
「勇者ではないですけど、先天的な資質として同じものを持っているということです」
勇者の特性とは、鍛えれば鍛えるほど強くなってしまう才能。ラスボスである魔王がまさか努力して強くなるタイプだとは思わなかったが、剣の道一筋で生きてきたゲンジロウ爺さんがあれだけ強いことを考えれば、魔王もかなり強いのだろう。
「でも、それって地球から勇者を十人も送り込むような話か?」
「と、言いますと?」
「勇者一人に対して、勇者十人をぶつけるようなものだろ? 袋叩きにならないか?」
極端なことを言ってしまえば、高級回復薬を何本か携帯したゲンジロウ爺さんなら、魔王とタイマンで戦っても、良い勝負ができてしまいそうな気がする。
だが、山田は難しい顔をしてしばらく考え込んだ後、首を横に振った。
「申し訳ないですけど、ただ単に頭数を揃えただけでは、太刀打ちできないと思います」
「そんなに強いのか?」
「そりゃ強いですよ。というか、言い忘れていましたけど、この世界の魔法使いって、長生きする傾向があるんです」
山田の話では、魔法を使うために魔力を体内に留めたり、循環させたりすることが、結果として寿命を延ばすことにつながっているらしい。
「あくまでそういう傾向があるという話なので、勿論、個人差はあるんですけど。ただ、種族として魔法が得意な森人と魔人は、明らかに普通の人間よりも平均寿命が長いです」
「どれくらい?」
「普通の人間の一.五倍から二倍くらいですね」
「結構、差があるな」
仮に普通の人間の平均寿命を七十年から八十年だとしても、森人や魔人は確実に百年以上、生きる計算になる。二百年くらい生きる者もいるかもしれない。
「そして、この世界の魔王は、百年前からずっと人類の厄災として君臨し続けているんです。この意味、分かりますよね?」
「――――ああ、分かる」
どうやら、勇者の特性と長寿が組み合わさると、とんでもないことになるようだ。
ゲンジロウ爺さんがどんなに強くても、自己研鑽に費やした期間はせいぜい数十年。
だが、この世界の魔王はその数倍の期間を鍛錬に充てることができた計算になる。
百年前の時点で、既に魔王と呼ばれるだけの実力があったにも関わらず、だ。
勿論、魔王が慢心して百年前から成長していない可能性もあるが、楽観はしない方がいいだろう。
「これもう、魔王が寿命で死ぬのを待った方がいいんじゃないか?」
「それが、まるで予想できないんですよね。不死とは言わないまでも、こちらの想定を遥かに超えた長命種に進化してしまっている可能性もあるので」
「厄介だな」
勇者の特性を持った魔王が不死とか、もう手が付けられない。
「だから、僕としては勇者十人でも多すぎるとは思わないです。覇王丸さんには、無理せずに生き延びてもらって、転生組の勇者が戦力になる十年後から二十年後に、人類軍のリーダーになってほしいですね」
「かなり先の話だな」
俺としては、ゲンジロウ爺さんが元気なうちに決着をつけてしまいたかった。
現状、人類側の最強カードであるゲンジロウ爺さんをもってしても、単独では魔王には歯が立たないのかどうか――――彼我の戦力差を知りたいところだ。
「ん?」
ふと隣を見ると、リリエルが変な体勢のままソファで寝息を立てていた。
「妹、眠ってるぞ」
「ああ。もう、遅い時間ですからね。今日は僕も仕事部屋に泊まります」
そう言って、山田も大あくびをしたので、その日はそれでお開きになった。
評価、ブックマーク、感想などをもらえると嬉しいです。
 




