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霊薬のおかわり

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

 活動拠点にしている竜の巣の近くの集落に到着すると、ゲンジロウ爺さんと見覚えのある男が立ち話をしていた。


「あ! 勇者様!」


 男の方が、歩み寄る俺に気が付いて、大声で挨拶をする。


「国際会議への参加、お疲れさまでした。私とは、ちょうど行き違いになったようです」


「……」


「リッタです! 神聖教会の衛兵で、勇者様からの依頼を受けて、大聖堂に霊薬を受け取りに向かっていたリッタです!」


「勿論、覚えていたぞ」


 顔も名前も覚えていたが、意地悪でド忘れしたふりをしていただけだ。


「霊薬を持って来てくれたのか?」


「はい! 話を聞いて、きっと、勇者様はこうなることをすべて予見して、私に霊薬を取りに行かせたのだろうと確信し、お届けにあがった次第です!」


「予見はしていなかったけどな」


 そもそも、俺がリッタを大聖堂に向かわせたのは、まだ、鬼人の島に行く前のことだ。その時点で、竜王が大怪我することを予見していたのだとしたら、俺は未来予知ができるレベルの預言者になってしまう。あるいは、俺がすべての首謀者であるかの、どちらかだ。


「霊薬は竜王のところに?」


「うむ。嬢ちゃんたちが、大事そうに持っていったぞ」


 今頃は治療も終わっておるだろう、と。


 ゲンジロウ爺さんが、俺の質問に回答した。


「そうか。それじゃあ、今後は付きっきりで看病する必要もなくなるのかな?」


「そうなるとよいな」


 竜王の状態が快方に向かえば、モースをはじめとする竜たちも安心できるだろう。


 そして、結果論ではあるが、前回に続いて今回も、竜王の怪我を治療してしまったライカの地位が、竜の巣の中で爆上がりしてしまいそうな気がする。ライカが竜の軍勢を率いて魔王軍と戦う日が、すぐそこまで近づいているのかもしれない。


「この後、俺も野暮用のついでに、様子を見に行ってくる。……と、その前に」


 俺は、リッタの肩を叩いて、労いの言葉を掛けた。


「リッタもご苦労さん。長旅、疲れただろう?」


「いえ。勇者様に比べれば、私の働きなど些細なものです。平和な世界を勝ち取るためには、これくらいで疲れたなどと弱音を吐いている場合ではありません」


「え、本当に?」


「え?」


 急に風向きが変わったことを感じ取ったのか、リッタの表情が露骨に強張った。


「霊薬、竜王の治療に使っちゃったんだよな?」


「……はい」


「じゃあ、在庫はもう無いよな?」


「……はい」


「……」(無言の圧力)


「もう一往復して参ります!」


 自棄になって叫んだリッタの背中を、俺は笑いながらバンバンと叩いた。


「うそうそ。冗談だって。ほら」


 そう言って、腰の雑脳袋から、霊薬の瓶を取り出して見せる。


「え、それは……?」


「アルバレンティア王国の会議に、法王様も出席していたんだよ。それで、会議が終わった後に、会って話をする機会があってさ。その時に渡されたんだ」


 しかも、二個も。


 霊薬を製作する際は、世界最高の治癒魔法の使い手である法王が、ほぼ一日がかりで少量の水に治癒魔法を使い続ける必要があるため、法王としての日常業務をやり繰りしても、二本の霊薬を作るのが限界だったらしい。


 また、今後、追加の霊薬が必要になった時は、俺の名義で直接法王に宛てて手紙を書いてほしいとも、言われてしまった。


 どうやら、ヒナからの手紙が届くと、神聖教会の重鎮(ヒナを溺愛している爺さんたち)が限界オタクと化してしまい、法王に霊薬を作るように圧力を掛けてくるため、とても鬱陶しいのだそうだ。


「あと、リッタにあまり使い走りの仕事をさせないように、とも注意された」


「え……。法王猊下がそのようなことを?」


「ああ。よく考えたら、お前は魔王軍と戦うために、神聖教会が派遣した戦士だもんな。今まで、お使いばかりさせて悪かったよ」


「そんな、謝らないでください」


「次は、立派に殉職できるように、厳しい戦場に送り出してやるからな」


「……はい」


 いつでも平和の礎になる覚悟はできています、と。


 リッタがぷるぷる震えながら、殉職する覚悟を決めたところで、


「こら。いい加減にせんか」


「いてっ」


 ゲンジロウ爺さんから、刀の鞘で頭を小突かれてしまった。

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