閉会
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次回の更新は明日です。
「俺が口利きできるとしたら、第二方面軍と敵対する場合限定で、人類軍の通行を見逃してもらうくらいだろうな」
その場合でも、不必要に竜の巣に近づけば、即アウトの判定を受けて、迎撃されてしまうだろう。敵対した場合でさえそうなるのだから、第二方面軍と共闘しようものなら、哨戒中の竜に発見されしだい、仲間を呼ばれて、一網打尽にされてしまうはずだ。
そして、ナルヒェンをはじめとする飛翔魔法の得意な竜たちの警戒網を潜り抜けることのできる地上部隊は、この世界には存在しない。
「ふむ。つまり、第二方面軍と組んだ場合は、オース海峡の港を使うことができない上、竜に見つかりしだい、攻撃されてしまうということだな?」
「そうなる可能性が高い」
「――――これは、決を採るまでもないのではないか? 目先の勝ちを拾うために、第二方面軍と組んだ瞬間、我々のトレンタ大陸における生存圏すら脅かされかねんぞ。これでもまだ、第二方面軍との共闘を支持する者はいるか?」
ヴェンの問い掛けに、先陣を切って手を挙げる者は一人もいなかった。
「どうなった? 話はまとまったのかね?」
途中からすっかり出番の無くなってしまったウォルフが、小声で俺に尋ねてくる。
「うーん……。まとまったというか……」
どちらかと言えば、一度はまとまりかけていた議論が、ちゃぶ台返しによって、振り出しに戻ったと言うべきだろう。
「ここから「じゃあ、どうするのか」を、皆で話し合う感じだな」
「それは、長くなりそうだね。そういうことなら、私の役目は無事に終わったようだし、少々休ませてもらうとしよう」
そう言うと、ウォルフは手探りする素振りもなく、少し離れた位置にある椅子の背もたれを掴んで引き寄せると、さっさと腰掛けてしまった。
(距離感ばっちりで椅子を手繰り寄せてんじゃねーよ)
これでは、大広間に入ってくる際に、ハウンドとオルツに手を引かれながら登場した「目が見えないアピール」が台無しだ。
俺はウォルフの頭を引っ叩きたいのを堪えていたが、幸いなことに、詰めの甘いウォルフの行動を目に止めた者は、誰もいなかった。
*
すったもんだの末に、なんとか閉幕した国際会議から二日後、俺は早くもトレンタ大陸への帰路に着くことになった。
これは、獣人国が現在進行形で魔王軍と戦争中であることを鑑みて、獣王であるウォルフの不在が長期間に及ぶことは、悪影響が大きいと判断されたためだ。
(というか、普通にサルーキから「可能な限り、早く帰ってくるように」と釘を刺されたからな……)
『キレ気味に言われましたよね』
俺としては、トレンタ大陸で留守番をしている仲間に申し訳ないとは思いつつも、あと何日かは羽を伸ばしたいと思っていたのだが、こちらの都合で強引に連れ出したウォルフを一人で帰らせるわけにはいかない(そんなことをしたら獣人国を出禁になってしまう)ので、一緒に帰ることになった。
それでも、会議の閉幕から二日後の帰還になったのは、昨日、一昨日と、ウォルフが各国の代表と立て続けに個別会談をしていたためだ。
「いや。実に有意義な外遊だった。幾つかの国とは、交易を結ぶこともできたよ」
早く帰って皆に報告したい、と。
この二日間、休む間も無いほど過密なタイムスケジュールだったにも関わらず、ウォルフは疲れた様子もなく、ホクホク顔の上機嫌だった。
一方、来る時も俺たちとは別の船だったハミットは、ウォルフほどタイトなスケジュールで会談をこなすだけの体力が無いため、もうしばらくアルバレンティア王国に滞在するらしい。
「会議の時の発言を、法王様に注意されちゃいましたー」
「当然だよなぁ?」
あの爆弾発言のせいで、俺もとばっちりの風評被害を受けたのだ。
大森林の勇者はどうしようもない女好きだという噂が、今後、オット大陸中に拡散するのかと思うと、げんなりした気分になってしまう。
(こうなったら、一日も早く魔王を討伐して、世間の悪いイメージを払拭するしかない……)
『自分のスキャンダルの火消しのために、魔王を討伐しようとするクズ』
(うるせー。こちとら、四人も嫁がいるから、否定したところで説得力皆無なんだよ)
『身から出た錆なんだよなぁ』
いつもどおり、山田と頭の中で罵り合いながらも、過密スケジュールに耐えかねて、弱音と愚痴を吐きまくっているハミットを、俺は時間を掛けて宥めすかすことになった。
その他にも、法王や、スエービルランス王国の皇太子や、ヴリント王国の国王ヴェンなど、なかなかに濃いメンツと時間を取って話をしたり、ロザリアやベルレノを連れて再び城下町に遊びに行ったりと、俺も俺で目一杯に予定を詰め込んで、旧交を温めたり、ストレスを発散したりして、短い滞在期間を満喫することができた。
そうして、束の間の余暇を楽しんだ後、ベルレノやウォルフと一緒にトレンタ大陸に戻った俺は、休む間もなく、竜の巣に向かった。
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