リリエル
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その日の夜。
絶対に呼ばれないと思っていたら、山田の仕事部屋に呼び出された。
「なんだ……? あの野郎、死ぬ覚悟ができたのか?」
俺が殺意を漲らせつつ室内を見渡すと、山田がいつも座っているオフィスチェアがくるりと回転し、見たことのない生き物が姿を現した。
「あ! 本当にやってきた! すごいすごい!」
オフィスチェアの背もたれに全身が隠れてしまうほど小柄な体躯。いわゆる碧眼に白い肌。
見たことのない生き物の正体は、ライカを金髪に変えたような外見の少女だった。
「大きい! うわあ……すごく大きい!」
俺の高身長がお気に召したらしく、ちょろちょろと足元にまとわりついてくる。
「何だ。抱っこしてほしいのか?」
「いいの!?」
「いいよ」
そう言って、俺がひょいと抱きかかえると、少女は鼻息を荒くして大はしゃぎをした。
「すごい! ほら、天井に手が届きそう!」
「そうだな」
「なんだか、空を飛んでいるみたいじゃない!?」
「俺はいつもこの高さだから」
「いいなあ!」
俺は少女を抱きかかえたまま、仕事部屋をぐるぐると何周もする羽目になった。
ようやく満足してもらえたところで、お互いにソファに腰かける。
「で、お前は誰だ?」
「あ、申し遅れました。私は山田タロエルの妹でリリエルと申します」
リリエルと名乗る少女は、いきなり畏まって礼儀正しく頭を下げた。
「妹?」
「はい」
山田に妹がいるとは初耳だ。
「なんで、妹がここに?」
「はい。兄が、私を生贄に捧げることで怒りを鎮めてはもらえないかと」
「山田……そこまで堕ちたか」
自分が助かるために、まさか身内を人身御供に差し出すとは。
多分、ユニットバスあたりに本人が隠れて様子を窺っているのだろうが、そんな見え透いた茶番に付き合ってやる義理は無い。
リリエルはテーブルに両手を付くと、深々と頭を下げた。
「そんなわけで、私を好きにして構いませんのでどうか怒りをお鎮めください」
「祟り神みたいに言われても困るんだけど……そこまでの覚悟があるならいいだろう」
「え?」
「兄貴の代わりに、お前をぶん殴って水に流してやる」
「ええええ!?」
まさかの死刑執行宣告に、リリエルは驚愕の表情を浮かべた。
「どうした? 兄貴に騙されたのか? 残念ながら、俺は子供でも本気で殴るぞ」
「う、あ、そ、その……」
俺が立ちあがって指の関節をボキボキと鳴らすと、リリエルは顔面蒼白になった。
つい先程までは目を輝かせていた俺の高身長も、今では恐怖の対象になっているようだ。
「顔面に覇王丸強パンチか、尻に覇王丸強キックか、好きな方を選ばせてやる」
「ゆる……許して……」
「お望みどおり一発で許してやる。――――さあ、選べ」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」
その時、ユニットバスのドアが開いて、俺の予想どおり、山田が飛び出してきた。
「魔王軍の指揮官を倒した技を妹に使うな! 死ぬわ!」
「妹を生贄に差し出したのはお前だろ」
「妹を殴るくらいなら僕を――――
「おらぁっ!」
「ぐへっ!」
山田が最後まで言い終えるより先に、俺は渾身のビンタを叩きこんだ。
「お兄ちゃぁぁぁぁぁん!」
変わり果てた姿で転がる山田に、リリエルが泣きながら駆け寄った。
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