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再検討

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

「待っていただきたい。勝手に話をまとめられては困る」


 参列者の一人が、話の主導権を取り戻そうとするが、遅きに失した感がある。


 何と言っても、法王の発言を許してしまったことが、致命的だった。


 神聖教会は、オット大陸を席巻する一大宗教なのだ。そして、法王の意見はそのまま組織の公式見解になりやすいし、ならなかったとしても、信徒の多くは「公式見解のようなもの」だと、忖度して受け止めることになる。


 そうなると、各国の為政者は神聖教会の公式見解を無視して、第二方面軍と共闘することが難しくなるのだ。そんなことをすれば、敬虔な信徒から不信感を持たれてしまう。


 このように、国境を簡単に飛び越えて、特定の思想や価値観を広めてくるのが、宗教の怖いところだ。今でこそ撤回されているが、かつてオット大陸では、神聖教会の公式見解により、獣人が差別の対象になっていたという悪しき前例がある。


 法王もそのことを理解しているので、賛成一色のところに、空気を読まず、自分だけ反対の意思表示をするような真似は控えていたのだろう。


(よく考えたら、ヒナ経由で神聖教会に根回しをしておけば、もっと楽ができたのかな?)


 今になって、そんなことを思いついたが、現在、ヒナは竜王の治療に掛かりきりの状態なので、優先度を考えても、他のことに時間を割く余裕は無かったはずだ。


 結局、獣人国からウォルフを連れて来られただけでも、上々の成果なのだろう。


 第二方面軍との共闘に、複数の国が異を唱えたことにより、収拾がつかなくなりかけた場の雰囲気を再びまとめたのは、ヴェンだった。


「ふむ。では、改めて決を採ろうではないか。獣人国や、竜の巣との関係を悪化させてまで、第二方面軍と共闘すべきなのか否か。もう一度、皆の意見を集約し、再検討すべきだろう」


「竜の巣?」


「先程の覇王丸の話を聞いていなかったのか?」


 虚を衝かれたように聞き返した参列者の顔を、ヴェンは呆れたように見返した。


「覇王丸は、はっきり「竜の巣」とも言っていたぞ? そうであろう?」


「ああ。言ったはずだ」


 もっとも、その発言の直後に、サプライズでウォルフに登場してもらったので、その印象が強すぎて、参列者の頭から竜の巣のことが抜け落ちてしまったのかもしれない。


 だが、実際には竜の巣との関係がこじれることの方が、獣人国との関係がそうなるよりも、遥かに深刻なのだ。


 何しろ、竜たちは人類軍と魔王軍の戦争を「人類同士の勢力争い」としか見ていない。


 竜にとっては、ただの人間も、魔人も、獣人も、森人も、鉱人も、同じ「人間」なのだ。


「簡単に言うと、竜の巣は魔王軍と人類軍を厳密に区別していないし、する必要は無いと考えている。だから、魔王軍の本隊と第二方面軍を区別しないのは勿論のこと、第二方面軍と共闘するなら、人類軍に対しても敵対行動を取ってくるはずだ」


 まして、今は竜王が重傷を負っているため、すべての竜が「手負いの獣」のように警戒心を剥き出しにしている状態だ。軍隊が下手に近づこうものなら、問答無用で撃退されてしまうだろう。


「勇者殿は、竜の巣と協力しているという話を聞いているが?」


「個人的に仲良くしている竜がいるだけだな。俺は竜と会話ができるから、例外的にそういう関係を築くことができたけど、竜の言葉を理解できない場合は、同じような関係を構築するのは、難しいと思うぞ」


 現在、ソレイユをはじめとする神聖教会の神官たちも、竜の巣への出入りを認められているが、それは竜王の治療という、他の何事にも優先する、絶対的な大義名分があるからだ。


「勇者殿に口利きをしてもらうことはできないのだろうか?」


「無理じゃないかな」


 なぜなら、ただでさえ竜は、人類のことを「自分たちを差し置いて地上で繁栄した種族」だと考えており、快く思っていないからだ。


 デフォルトの状態で人類そのものに対する好感度が高くないところに、魔王軍が、竜王を傷つけるという特大の禁忌を侵してしまったのだから、竜の巣の魔王軍に対するヘイトは上限を振り切ってしまっている。


 そこに「魔王軍の中でも第二方面軍は敵ではない」とか「人類軍は第二方面軍と組んでいるけど敵ではない」などと説明したところで、聞く耳を持ってもらえるとは思えない。

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