獣王の説明 ニ
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「獣王という呼称には、良くない印象を抱いている方も多いだろう。実際、ベスティアは先代獣王の時代には、魔王軍と同盟を結んでいた。魔王軍の一員として、アルバレンティア王国に攻め込んだことも、ザントブルグ王国をはじめとする人類国家を壊滅に追い込んだことも、誤魔化しようの無い事実だ。関係者の方々には、この場をお借りして、深く謝罪を申し上げる」
そう言って、ウォルフが深々と頭を下げると、議場は異様な雰囲気に包まれた。
(また、謝ってる……)
対峙して、目を合わせるだけで、他者を圧倒してしまう威容のウォルフが、自分とは直接関係の無い先代獣王のことで謝罪しているのだ。すぐに謝るのは、ウォルフの美徳でもあり、欠点でもある。
もし、この場にサルーキやオズが同席していたら、何とも言えない複雑な表情を浮かべて、この光景を眺めていたことだろう。
ただ、誰かに言及される前に謝ったことは、結果的に良かったのではないかと、俺は思う。腰を低くすることで、話し掛けやすい雰囲気を作ることはできるからだ。
「……一つ、お尋ねしてもよいだろうか?」
ウォルフが頭を上げるのを待って、参列者の一人が遠慮がちに口を開いた。
「我々か聞き及んでいる獣王の特徴と、貴殿の外見が瓜二つであることについては、何か理由があるのだろうか? それとも、我々が単に獣人の見た目を判別できていないだけか?」
「いや。この両目の傷を除けば、瓜二つという認識で間違いないだろう。なにせ、先代獣王は私の双子の弟なのだから」
ウォルフのカミングアウトに、再び議場がざわめいた。
(双子だったのか……)
一方、俺も初めて聞いた話に若干の驚きを覚えはしたが、正直なところ、納得もしていた。纏っている雰囲気こそまったくの別人だが、外見に関して言えば、二人は生き写しなのだ。
その後、ウォルフは特に包み隠すことなく、獣王の座を巡って兄弟間で決闘をしたことや、その決闘に敗北して両目の視力を失ったこと、雌伏の時を経て反乱を起こし、獣王の座を奪い取ったことなどを説明した。
「その時に、私にいろいろと協力してくれたのが、ここにいる覇王丸だ。彼には個人としても王としても、最大限の恩義を感じている」
「なるほど……。そのような経緯があったと」
周囲の視線が、一斉に俺に集中する。
どうやら、各国の代表としては、なぜ、俺が、ウォルフをオット大陸まで連れて来ることができたのかという点が、そもそもの疑問だったようだ。いくら勇者とはいえ、人間が獣人国の反乱に一枚噛んでいたとは、夢にも思わなかったらしい。
外国の政変にもちょっかいを出すのか、とんでもないな、などと。
耳を澄ませば、俺に対する風評被害があちらこちらで囁かれているような気がするが、よくよく考えると、事実無根というわけではないので、俺としては反論しにくい。
ひとまず、元々、ウォルフが人類国家と共闘して、魔王軍に対抗する方針を掲げていたことを知って、各国の代表は安堵した様子だ。
「それでは、獣王殿は、今後、我々人類軍と共闘し、魔王を討伐したいとお考えなのか?」
「是非、そのようにしたいと考えている。一国で対処するには、この百年で、魔王の統治するエガリテルヴァンジュ王国は強大になりすぎてしまった。私に言えた義理ではないが、過去の遺恨は捨てて、我々は協力すべきだ。勿論、魔王軍との同盟時代に、我が国が犯した罪の清算については、機会を改めて、個別に話し合いたいと思っている」
ウォルフの言葉に、参列者たちは希望を見出したかのように、目を輝かせた。
オース海峡から魔王軍を駆逐した実績のある獣人部隊が味方になるのであれば、地上戦でも魔王軍の本隊に引けを取らない……とでも考えているのだろうか?
だが、肝心なことを忘れてはいけない。
ウォルフは、第二方面軍との共闘に反対する俺の要請に応じて、今、この場にいるのだ。
俺にとって「都合が悪い主張」を、するはずがないのである。
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