獣王の説明 一
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次回の更新は明後日です。
大広間に足を踏み入れたウォルフは、ハウンドとオルツに手を引かれながら、ゆっくりした歩みで、俺のいる場所まで近づいてきた。
「獣王……?」
「どうなっているのだ!?」
突然の事態に参列者は動揺を隠せない様子だ。後方に控える各国の護衛たちも、臨戦態勢と言っても差し支えないほど警戒している。
(まあ、ゴツい体格の獣人がいきなり三人も部屋に入ってきたら、誰だって驚くよな)
まして、ウォルフの見た目は、前獣王のレグルスと瓜二つなのだ。オット大陸の統治者が一堂に会している場所に、敵としてのレグルスがカチコミしてきたと考えると、かなり絶望的な状況ではある。
ここは、俺がもう一度、安全であることを念押しする必要があるだろう。
「さっきも言ったけど、大丈夫だから、落ち着いてくれ。ウォルフはオット大陸に攻め込んできた獣王とは別人だ。獣王が交代したことや、獣人国と魔王軍の同盟関係が破綻したことは、皆も知っているだろう? それは、ウォルフが獣王になってから起きたことなんだ。今の獣人国には、人類国家と敵対する意思は無い」
だから、落ち着いてくれ、と。
俺が議場に呼び掛けると、それを受けて、ウォルフが立ち止まった。
「どうやら、私のせいで諸兄を驚かせてしまったようだ。申し訳ない」
ウォルフが一声発するだけで、周囲が水を打ったように静まり返る。
「……予想はしていたが、そういう反応になるのだね」
やれやれ、と。
ウォルフは苦笑を浮かべて、両目の古傷を指さした。
「そんなに警戒しないでほしい。ご覧の通り、私は両目の視力を失っていて、今も護衛に手を引かれながら、歩いている状態なのだ。こんな私が、仮に暴れたとしても、簡単に取り押さえられてしまうだろう。私の脅威など、タカが知れていると言うものだよ」
(よく言うよ)
いけしゃあしゃあと嘘を吐くウォルフを見て、俺は心の中でツッコミを入れた。
たしかに、ウォルフは目が見えないが、長年の努力により、暗闇の中でもまったく問題無く生活できる程度には、魔力を感知する術を身に付けている。その精度は、前獣王レグルスとの本気の組手で、技術的に圧倒してしまうほどだ。
現在、ハウンドとオルツに手を引かれて、ゆっくり歩いているのは、目が見えないことや、脅威ではないことをアピールするための、単なる演出に過ぎない。
実際にウォルフが本気で暴れたら、議場は大惨事に見舞われるだろう。
(絶対にそんなことにはならないけど)
獣王の肩書に恥じない実力を兼ね備えているにも関わらず、ウォルフの性格は非常に温厚で謙虚な平和主義者だ。先程、自分が暴れてもタカが知れているという趣旨の発言をしたが、もしかすると、謙遜ではなく、本気でそう思っているのかもしれない。無自覚な過小評価は、ある意味、謙遜よりもタチが悪いと言える。
とはいえ、ウォルフの無力アピールが功を奏したのか、議場を覆い尽くしていた、張り詰めるような緊張感は、少しだけ和らいだ。
「さて。もう、私が発言しても構わないのかな?」
「いいぞ。人類軍が第二方面軍と組んだ場合、どうなるのかを説明してほしい」
「ふむ。了解した。――――だが、その前に」
俺の隣に並んだウォルフは、リカルドから椅子に座るように勧められたが、それを丁重に断ると、姿勢を正して議場を見渡した。勿論、実際に目で見ているわけではないのだが。
「さて。順番が前後してしまったが、自己紹介をさせていただこう。私は獣人国ベスティアの国王。名を、ウォルフという。世間では、獣王という呼称の方が広く知られているようだが、どのように呼んでもらっても構わない」
俺が話している時とは違って、誰も口を挟んだり、途中で質問を飛ばしたりはしなかった。全員がウォルフの人となりを見極めようとしているようだ。
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