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過去回想

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

 国際会議の場で、ウォルフに話をしてもらえないかと思い付いたのは、オット大陸に向かう船が出港する、数日前のことだ。


 日程が急な上に、国王であるウォルフに同行してもらうという無茶な依頼だったため、俺は駄目で元々くらいの気持ちで獣人国を訪問したのだが――――


「ふむ。了解した。では、早速、準備に取り掛かろう」


 意外にも、ウォルフは即断即決で、この非常識な依頼を快諾した。


「陛下! なりません! どうか、ご再考ください!」


 血相を変えて反発したのは、側近のサルーキだ。国境の南側の安全を確保した後は、最前線を退いて、軍を統括する役職に任命されたらしい。


「オット大陸の統治者たちが一堂に会するのだろう? 将来的に、国交を結ぶことになる国もあるかもしれない。ちょうど良い機会だと思うが」


「それを差し引いても、警護上の問題が大きすぎます。話を聞く限り、大勢の護衛を付けることは難しそうですし……」


「身一つで行けばいいだろう」


「そのようなわけには参りません」


 もっと自分の立場を自覚してほしい、と。


 サルーキは諫言した後、ぎろりと俺を睨み付けた。


「貴様という奴は……! こういうことは、もっと早くに話を持ってくるべきだろう」


「だって、昨日、思い付いたから」


「軽い思い付きで、余所の国の統治者を、外国に連れて行こうとするなっ!」


「だよな」


 俺としても、まさか快諾されるとは思っていなかった上に、サルーキの言い分が百%正論であるため、何も反論できない。


 すると、軽い思い付きで国外に連れ出されようとしている張本人が、見かねて仲裁に入ってきた。


「それくらいにしてやってくれ。この国の恩人の頼みではないか」


「しかし……」


「そもそもだな。もし、覇王丸の言うことが本当ならば、ベスティアとしても黙っているべきではないだろう。私には、直々に出向くという選択肢が、そこまで悪いとは思えないが」


「陛下が直々に足を運ぶ必要は無いと思いますが……」


 サルーキは渋面になって言い返したが、ウォルフの言い分にも一理あると思ったのか、それ以上は強く反対しなかった。


「私かオズのどちらかが、陛下の名代として出向くのはいかがでしょうか?」


「それは駄目だぞ」


 サルーキの捻り出した代案を、俺は即座に却下した。


「なぜ、駄目なのだ」


「お前らは、オット大陸での前科があるだろ。オターネストを占領した部隊の指揮官と副官が、どの面下げて訪問するつもりだよ」


「ぐ……」


 残念ながら、サルーキやオズか、アルバレンティア王国を訪れるのは、わざわざ国際問題になりに行くようなものだ。


「し、しかし、副官……フィオレ殿は、貴様の仲間として、既にオット大陸にも足を運んだと聞いているぞ?」


「フィオレは、レグルスの副官だった頃は、仮面で顔を隠していたからな。素顔の状態なら、ちょっと日焼けしただけの人間で通るんだよ。でも、お前らは駄目だろ」


 少なくとも、アルバレンティア王国と獣人国が正式に国交を結び、過去の出来事については不問(または処分保留)にするという内容の取り決めをするまでは、挑発行為だと受け取られかねない軽率な行動は、自粛するべきだろう。


「それでは、陛下の護衛ができないではないかっ!」


「こっちで、護衛を付けてやるよ。ハウンドとオルツなら、実力的にも申し分ないだろ?」


「……あいつらか」


 ハウンドとオルツは、獣人国がオース海峡から魔王軍を駆逐した際に、サルーキの率いる獣人部隊と行動を共にしている。ザントブルグ王国の統治者候補を探すという目的があったのだが、魔王軍との戦闘にも参加し、それなりに活躍したらしいので、サルーキは二人の実力も人となりも知っているはずだ。少なくとも、オルツの方は、人格、体格、実力、すべての面で、護衛に適しているように思える。


「勿論、俺も同行するし、何かあったら全力で護衛するよ」


「ははは。君が護衛をしてくれるのなら、私の安全は保証されたようなものだな」


 これで決まりだ、と。


 ウォルフは楽しそうに笑ったが、その日から獣人国の政治と軍事の中枢は、新体制に移行して以来、初めてとなる獣王の外遊の準備で、大わらわになったらしい。


 俺は、サルーキから「覚えていろよ」と、散々恨み事を言われることになった。

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