覇王丸の主張 七
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「よって、広大な魔王領については、第二方面軍は段階的に軍を撤収させて、最終的にはその大半を手放すことになるはずだ」
戦争に敗れた国が、敗戦の代償として領地を失う。これ自体は、よくあることだろう。
問題は、手放すことになる領地が広すぎること。
「統治者のいなくなった土地は、誰が治めるんだ?」
「まだ、そこまでは決めていない。ザントブルグ王国のように、統治者の血族が存命しているのであれば、話は早いのだが……。そうでない場合、現実的な話をしてしまえば、我々の中の幾つかの国が、分割して治めることになるだろう」
ラルフはそう言って、周囲を見回したが、今度は頷く者と、無関心を装う者が半々くらいの割合だった。
「そういうことなら、やっぱり、俺の言ったとおりなんじゃないか? もし、俺が征龍候の立場なら、ただ単に共闘を呼び掛けるだけじゃなくて、戦争が終わった後のことについても話をすると思うけどな」
「すべての国に、手当たり次第に、耳当たりの良い話をすると?」
「そうだな。俺の予想では、征龍候は「必ず裏切る」から、二枚舌になろうと、三枚舌になろうと、守る必要の無い口約束は、幾らでもすると思う」
どうせ、密約を交わした国は、情報が外部に漏れないように固く口を閉ざすだろうし、もし、それが原因で、人類国家同士がギスギスした関係になろうものなら、征龍侯としては、願ったり叶ったりのはずだ。
敵対組織を内側から崩壊させる搦め手は、過去に神聖教会やスエービルランス王国で起きた事件と照らし合わせても、征龍侯が好んで使う手段だと言える。
今回の件だって、俺がこうして警鐘を鳴らすことによって、結果的に各国の代表には「自分たちを出し抜くかもしれない他国の存在」を、否応なく意識させてしまった。
征龍候の取る行動は、いずれも唐突で、場当たり的なものが多いように思えるが、その実、嫌なポイントだけはしっかり突いてくるので、非常に厄介なのだ。
だが、それも大事の前の小事。
味方の国同士が多少は疑心暗鬼になったとしても、最終的に第二方面軍とは組まない方向に話を持っていけるのであれば、それに越したことはない。
ここで、俺は切り札を出すことにした。
「あと、もう一つ。第二方面軍と組むことで、人類軍にとって不利益になることがある」
「――――それは?」
ラルフの表情が、神妙なものに変わった。多分、俺が本命のカードを手札から切ろうとしていることに、気づいたのだろう。
「第二方面軍と組んだ場合、人類軍はトレンタ大陸での信頼を失って、たとえ魔王を倒して、戦争を終わらせたとしても、その後の統治が難しくなるはずだ」
「それは、どういうことだね?」
俺の発言内容が、余程、想定外だったのだろう。参列者の一人が会話に割り込む形で質問を投げ掛けてきた。
「簡単な話だよ。オット大陸の住人と、トレンタ大陸の住人とでは、魔王軍に対する恨みや、嫌悪感の度合いが、全然、違うんだ」
それは、当然のことだと言える。
オット大陸では、魔王軍の侵攻を水際で食い止めたため、一部の者を除けば、魔王軍から直接的な被害を受けた者はいないが、トレンタ大陸では、魔王軍の侵攻によって、すべてを奪われた者が大半なのだ。そこをごっちゃにしてしまうと、大変なことになる。
「家族も、財産も、何もかも奪われた人たちが、いきなり「第二方面軍と組んだ」とか「第二方面軍は味方だ」なんて言われても、すんなり受け入れられるわけがないだろ? だいたい、その第二方面軍に家族を奪われた奴だっているんだぞ」
そこまで言うと、俺は隣の人物を一瞥した。
「――――ここにいるベルレノみたいに」
さらっと言うつもりが、ほんの少しだけ、声が強張ってしまった。
(ごめん)
心の中で、ベルレノに頭を下げる。
国王ではないベルレノに、わざわざこの会議に出席してもらった理由は、後学のためでも、紹介するためでもなく、正にこの時のためなのだ。
勿論、事前に説明をして、本人の承諾を得てはいるが、こんな形で自分の家族を引き合いに出して、利用するような真似、俺としては本意ではない。
だが、実際の被害者が目の前にいるのと、いないのとでは、説得力に天と地ほどの差が出るため、思い悩んだ結果、ベルレノに同席をお願いしたのである。
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