覇王丸の主張 三
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「さっき、征龍候には魔王を倒せないみたいなことを言ったよな? 実はあれ、ちょっとだけ語弊があるんだ」
俺が言ったのは、第二方面軍だけでは魔王軍の本隊に勝てないという意味ではない。
魔王軍の本隊ではなく「魔王一人」に勝てないのだ。
「結論から言うと、魔王を倒すことができるのは、俺だけなんだ。だから、第二方面軍からすれば、自分たちが敵を引き付けている間に、俺と人類軍が一丸となって敵の拠点に攻め込むのが、最も合理的って話になる」
ここで、俺は魔王の特徴について説明した。
魔王軍と竜の巣の戦闘に介入した際、魔王と直接対峙したこと。
魔王は臨戦状態になると、膨大な量の魔力が全身を覆い尽くして、殆どの魔法を無効化してしまうこと。
おまけに、その魔力が一種の「呪い」のような属性を帯びているため、魔力に触れたり、魔王に近づいたりするだけで、皮膚が爛れて、腐ってしまうこと。
かつて獣人国が魔王軍と同盟関係にあったのも、最強の獣人である獣王が「魔王には勝てない」と判断したことが原因であること。また、その汚染された魔力による攻撃は、最強の竜である竜王を一撃で戦闘不能に追い込んでしまうほどの威力であること。
ちなみに、魔王の外見的な特徴については、性別が女性だということだけ、伝えておいた。
「女……?」
「百年以上も生きている魔王の正体が?」
それでも、議場はかなりざわついたので、馬鹿正直に幼い少女のような見た目をしていたと告げていたら、話の信憑性が無くなっていたかもしれない。
(知っている奴も、何人かはいると思ったけどな)
さすがに、俺のように直接対峙したことのある者はいないだろうが、さりとて一国の代表が揃いも揃って、魔王の性別を把握していなかったとは考えにくい。
それとも、百年前に戦争を始めた人物の個人情報となると、もはや歴史研究の分野になってしまうのだろうか? 古い文献などから得た半信半疑の情報が、俺の証言とぴったり一致したため、改めて驚いたという可能性もある。
いずれにしても、戦場で初めて魔王と対峙した時の「こいつだ」という確信に近い感覚は、どんなに言葉を尽くしても、俺にしか理解することはできないのだろう。どうやっても共感を得られないのであれば、その部分については、わざわざ説明する必要はない。
ただ、そのせいで、魔王の脅威に対する説明が、やや抽象的になってしまった。
「……えーと。話を聞いただけじゃ、皆、いまいちピンときていない感じだな」
居並ぶ参列者の表情を見て、そのように判断した俺は、彼らの後方に控えている護衛に目を向けた。
「護衛の人たちの中で、魔法を使える人はどれくらいいる? ちょっと手を挙げてくれ」
俺の問い掛けに、ぱらぱらと半分くらいの護衛が手を挙げた。
「今、手を挙げた人たちは、魔力を知覚できるってことだよな? それなら、今から俺が一瞬だけ、魔王と同じように魔力を解放するから、見ていてくれよ」
百聞は一見にしかずというやつだ。
俺はほんの数秒だけ覚醒状態になって、魔力を解き放つことにした。
「……ふう」
大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
目を閉じて、覚醒の扉を全開にすると――――目を閉じているのに、大広間の中の様子を、鮮明に知覚できるようになった。
自分の体の中にあるエンジンが、突然、出力を上げて暴れはじめたような感覚。
溢れ出した魔力が、ほぼ垂れ流しの状態で、大広間を浸食しはじめた。
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