ロザリアは魔法が使えるらしい
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神聖教会の自治領までの道中は、俺が想像していた以上に快適だった。
まず、移動に使う馬車だが、荷台ではなくちゃんとした客車になっているため、揺れないし、尻が痛くならないし、疲れも溜まらない。
俺たちが使っていた馬車は今や完全な荷馬車と化し、アホ兄弟に御者を任せていた。
馬のハックとヤマダに餌を与える時だけ、ライカが様子を見に行っているようだ。
次に、宿泊についてだが、王族の外遊ということで野宿などするはずもなく、行く先々の町で俺たち(というかロザリア)は歓待を受けた。
勿論、その町で最も立派な建物に案内され、そこに泊まることができた。
そんなこんなで、王都エードラムを出立してから四日目には、国境を越えて神聖教会の自治領に入ることができた。
順調にいけば、更に四日後には聖地キドゥーシュプカに到着するらしい。
*
馬車の中での会話は、主に他愛のない雑談が中心だったが、たまに政治や、神聖教会や、魔王軍について話題が及ぶこともあった。
「そういえば、覇王丸様とライカちゃんは、夕方に二人でいなくなる時がありますけど、何をされているんですか?」
「魔法の練習だよ」
その日は、ロザリアの何気ない質問から、魔法について、そして魔王軍について踏み込んだ話をすることになった。
「俺は土の魔法を覚えたいから、泥だんごを作れる場所に移動しているんだ。ライカも一緒に特訓してる」
もっとも、ライカは土の魔法ではなく、治癒魔法を習得するための祈りがメインだが。
「そうだったのですね。習得はできそうですか?」
「全然。泥だんごがちっとも硬くならないんだよ」
「私も手ごたえみたいなものが全然ありません」
俺とライカはほぼ同時に、二人揃ってため息をついた。
「そうでしたか。……でも、諦めては駄目ですよ。私も魔法を習得するのに一年かかりましたから」
「え? 魔法を使えるのか?」
「はい。実力はジョアンの足元にも及びませんが、同じ水の魔法を使えます」
俺とライカが期待の籠もった眼差しで見つめたせいか、ロザリアは照れくさそうに答えた。
「そうか。言われてみれば、ジョアンが教育係だもんな」
「はい。見様見真似で。それでも習得するのに一年かかったのですから、多分、私には才能が無いのでしょうね」
「そんなことはないでしょう」
突然、それまで黙って話を聞いていたゲンジロウ爺さんが、口を挟んできた。
「継続は力という言葉があります。才能が無いと思い込んでいる者の大半は、単に努力が続かないだけ。才能ではなく、根性が足りぬのです。一年かけて魔法を習得したロザリア様には、才能があるとワシは思いますが」
「あ、ありがとうございます」
思いがけず、剣聖と呼ばれるゲンジロウ爺さんから褒められたロザリアは、頬を赤くさせて感謝の言葉を口にした。
(一日で魔法を習得した爺さんに褒められても、嫌味にしか聞こえない)
『それは覇王丸さんの性格がねじ曲がっているからですよ』
山田はそう言うが、現実問題として、一定期間で才能が無いと見限ることは必要だと思う。
仮に、諦めなければ十年後に魔法を習得できることが分かっていたとしても、十年の歳月を魔法の修業に費やせる者がどれだけいるだろうか?
本当に才能があるのは、初見でコツを掴んでしまうような連中のことだ。
「そういえば、森人なんかは修業をしなくても魔法を使えるようになるみたいだけど、それは才能があることになるだろ?」
魔法の話をした時にジョアンが言っていた「感覚タイプ」の人間のことだ。
「そうだの……。才能があるのか無いのかで言えば、多分、あるということになるのだろう。ワシらの世界の話になるが、自転車に乗るようなものだ」
自転車という言葉に、ロザリアとライカが首を傾げたが、ゲンジロウ爺さんは構わずに話を続けた。
「あれは、練習してやっと乗れるようになる者もいれば、いきなり乗れてしまう者もいるだろう? だが、競争して勝つのが常に後者とは限らんはずだ」
要するに、両者に差があるとすれば、それは最初の一歩だけ。二歩目以降はその後の努力でどうにでもなるのだと、ゲンジロウ爺さんは説明した。
(分かりやすいけど……。やっぱり、たった一日で上級者レベルまで上達した爺さんに言われても、嫌味にしか聞こえない)
『魔法に関しては、妙にひがみっぽいですね』
(仕方ないじゃん)
こちとら、来る日も来る日も泥だんごに怨念(魔力)を込めているつもりが、一向に変化の兆しが表れないので、早くも飽きかけているのだ。
正直、ライカが練習に付き合ってくれていなければ、既に見切りをつけていた可能性もある。
(せめて、前進しているのか、停滞しているのか、判別ができればなあ)
俺のそんな後ろ向きの感情は、次のゲンジロウ爺さんの発言を聞いて吹き飛ぶことになる。
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