今度こそ本当に出発する
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
「……おい、貴様。いつまでロザリアの肩に手を置いている」
「え?」
予想外の角度からクレームが飛んできた。
「巷ではくだらん噂が囁かれているようだが、俺は認めんぞ」
「噂?」
『ほら、魔王を倒したら王女様と結婚するってやつですよ』
「ああ、あの噂ね」
まったくのデマなので記憶の隅に追いやっていたが、金髪の男は気にしているらしい。
「何だ? 俺がロザリアと結婚して、この国を乗っ取るんじゃないかと心配してんのか?」
「何だと!?」
「心配するなよ、お兄ちゃん」
俺がロザリアから手を放して、金髪の男の肩をぽんぽんと叩くと、
「貴様に兄と呼ばれる筋合いはなぁぁぁぁぁいっ!」
案の定、金髪の男はいつものように顔を真っ赤にしてブチ切れた。
その様子を見かねて、ジョアンが苦笑いを浮かべながら俺たちの間に割って入ってくる。
「まあまあ。それくらいにしましょう? ゲンジロウさんの留守中は、この私が責任をもって殿下の護衛を務めさせていただきますから」
「何だと!? 聞いていないぞ!?」
「ゲンジロウさんと離れ離れになって寂しいのは分かりますけれど、殿下も大人なんですから我慢をしないと」
「誰が寂しいなどと言った!」
「さあさあ、殿下がいるとぶっちゃけ邪魔なんで、もう失礼しましょうね」
「ちょっと待てっ!」
ジョアンは金髪の男の言葉には耳を貸さず、恋人のように腕を絡めると、俺たちに向かって小さく手を振り、その場を立ち去ってしまった。
その間、金髪の男は抗議の声こそ上げていたものの、意外にもジョアンを乱暴に振りほどこうとはしなかった。
「何? あの二人、できてんの?」
「多分、違うと思いますけど……」
ロザリアも不思議そうに首を傾げていたが、
「お兄様は顔馴染みには気を遣うところがありますから。ジョアンと会ったのも、もう何年も前のことですし。一応、私の教育係でもあるので、気を遣ったのではないでしょうか」
結局、そう結論付けた。
*
護衛の兵士たちが隊列を組み、後は俺とライカが馬車に乗り込めばすぐに出発できる状態になった。
俺たちは最後の時間を借りて、見送りに来ていたハウンドと別れの挨拶を交わした。
「しばらくは別行動だけど、くれぐれも無茶はするなよ」
そう言って、ハウンドが俺の胸を拳で軽く叩く。
「お前こそ、俺たちがいなくなった途端に、獣人の評価を下げるようなことをするなよ」
「しねぇよ。というか、俺も今日の午後には大森林に向けて出立するはずだ」
「そうなのか?」
「フランツのおっさんが気を利かせてくれたんだろ」
ハウンドが言うには、何日か前にはいつでも出発できる状態になっていたらしいのだが、俺たちが一日でも長く一緒にいられるように、出発を先送りにしてくれたらしい。
「へぇ」
今生の別れというわけでもないのに、と。
最初は思ったが、すぐにフランツの心遣いに素直に感謝することにした。
なんだかんだ、ハウンドとは一緒にオターネストに乗り込んだ時からの間柄だ。
二週間になるのか、三週間になるのかは分からないが、別行動になるのは少しだけ寂しい。
「あの、ハウンド。父上に書いた手紙ですけど――――
それまで黙っていたライカが、おずおずとハウンドに話しかけた。
「おう。昨日、預かったやつだろ? ちゃんとボルゾイに渡しておくぜ」
どうやら、ライカは故郷のボルゾイに宛てて手紙を書いたらしい。
「神聖教会の聖地に行くことについては、あまり心配しないようにと伝えてください」
「心配するなと言ったところで、ボルゾイは心配すると思うけどな。でもまあ、過保護の覇王丸がいるから大丈夫だろ」
俺は心配してないけどな、と。
ハウンドは口角をつり上げて意地悪そうに笑った。
「あんまり無茶苦茶やって、ゲンジロウ爺さんと王女様を困らせるなよ?」
「それは時と場合による」
「ま、頑張んな。俺も早めに合流できるようにするからよ」
そう言って、手を差し出すハウンド。
俺はその手を握った。ハウンドと握手をしたのは、これが初めてだ。
「また後でな」
「おう。面白い土産話を期待してるぜ」
そして、俺とライカは馬車に乗り込み、使節団は一路東に向けて出発した。
聖地では、なんと聖職者の最高位である法王との会談が予定されているらしい。
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