獣人は目が良い
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
ふと隣のライカを見ると、窓の外の耕作地をじっと見つめている。
「どうした? 何か気になるものでもあるのか?」
「あの馬車なんですけど……」
そう言ってライカは指で指し示すが、ぱっと見ただけでも、耕作地のあちこちに荷馬車が停まっているので、どの馬車のことか分からない。
「どれだ?」
「あの、幌付きの馬車と、普通の荷馬車が並んで停まっているところなんですけど。さっき、変わった服装の人が、じっとこっちを見ていたんです」
ライカの言葉に、ゲンジロウ爺さんと金髪の男が顔を見合わせた。
勿論、俺にもライカの言葉が意味するところは理解できた。
「たしか、馬車に逃げられたんだよな?」
「そうだ」
俺からの質問に頷きつつ、ゲンジロウ爺さんと金髪の男も窓に顔を寄せる。
「おい、小娘。変わった服装というのは? 具体的に説明しろ」
「あの……。農作業をするような服装ではなかったので、変だなって……」
「あの馬車か……。遠すぎるっ。本当に見えているのだろうな?」
「はい。灰色のローブみたいな服を着ていました」
金髪の男の苛立たしげな問いかけにも、ライカは臆することなく頷いた。
獣人の感覚器官――――目や耳の良さは、俺もオターネストで目の当たりにしている。
これくらいの距離なら、ライカやハウンドには問題なく見えるだろう。
「仮にあれが取り逃がした馬車だとして、なぜ、停まっている?」
「それは、多分、木を隠すなら森というやつでしょう。猛スピードで遠ざかっていけば、否応なく目に留まりますからな。この馬車がいきなり現れたので、向こうも警戒しているのではないかと」
「つまり、目立ちたくない、見つかりたくない理由があるということだな?」
「恐らく……としか言えませんが」
金髪の男の問いかけに、ゲンジロウ爺さんは言葉を濁した。
だが、日本刀の鍔に手を添えているあたり、既にやる気になっているように見える。
「行きますかな?」
「そうだな……。白か黒かは、積荷を調べればはっきりする。ゲンジロウ、頼めるか?」
「お安い御用ですな」
ゲンジロウ爺さんは頷くと、軽い身のこなしで客車の外に降り立った。
「爺さん、俺も手伝おうか?」
「そうだの。では、頼もうか」
「ハウンドも行けるか?」
「行ける。退屈していたから、願ったり叶ったりだ」
ハウンドはゲンジロウ爺さんから貰った剣を軽く掲げて、獰猛な笑みを浮かべた。
(……あれ? アホ兄弟は?)
客車を降りて周囲を見渡すが、そこにアホ兄弟の姿は見当たらない。
『今更ですか? あの二人は置き去りにしてきましたよ』
(え?)
『いや、後ろから付いてこられるようなスピードじゃなかったでしょ』
言われてみれば、たしかにそのとおりだ。
アホ兄弟にライカと金髪の男の護衛を任せるつもりでいたのだが、今の今まで二人がいないことに気が付かなかった。
(まあいいか)
『扱いの軽さが悲しいですね』
俺はあっさり気持ちを切り替えて、御者席の兵士に二人の護衛を依頼した。
「覇王丸さんっ!」
その時、客車の中からライカが声を上げた。
「どうした?」
「あれを!」
ライカが指さす方向を見れば、幌付きの馬車が移動を始めている。
御者席には――――誰かが座っているようだが、服装までは確認できない。
「灰色のローブを着ている。間違いないぜ」
俺と同じ方向を見ていたハウンドが、力強く断言した。
「ワシらが外に出たことで、隠れるのは諦めたか。逃げる方向に舵を切ったようだの」
「ゲンジロウ、追えっ! 逃がすな!」
金髪の男の号令一下、俺たち三人は一斉に走り出した。
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