少しだけ評価が上がる
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馬車はスピードを上げて郊外をひた走っていた。
王都とはいえ、貧民街の近くともなるとさすがに道も舗装されていない。
「町外れは畑になっているんだな。この辺はオターネストも王都も同じか」
時折、縦に揺れる客車の中で、俺は呑気に呟いた。
ちょうど収穫の時期なのか、畑のあちこちに荷馬車が停まっている。
「なぜ、貴様らまで一緒に……!」
対面に座る金髪の男が、恨みがましい視線で俺を睨み付けた。
「これから大捕り物をやるんだろ?」
「だから、何だ? まさか、手伝うとでも言うつもりか?」
「いや、近くで見たい」
「物見遊山かっ! いい加減にしろ!」
金髪の男は怒鳴ったが、いつものように頭の血管が切れるほどヒートアップはしない。
『有事の際に冷静になれるのなら、案外、大物なのかもしれませんね』
山田の金髪の男に対する評価が、少しだけ上がったようだ。
「ふんっ。しかし、残念だったな。この馬車は現場には行かんぞ」
「どういうことだ?」
「現場から離れた場所に停めて、そこから指示を出す。俺が前面に出れば、それが噂になる。そうなってしまっては、今後の活動に支障をきたすからな」
つまり、手柄は要らないということだろうか?
「お前……もしかして、わざと自分の評価が低くなるように振る舞っているのか?」
「なんだ、それは? 俺の評価が低いとでも言うつもりか!?」
「いや、低いだろ。お前の良い噂なんか全然聞かないぞ」
実際、王城の使用人たちの中には、金髪の男の陰口を叩いている者もいる。
ちなみに、俺の中でも、金髪の男の評価は低い。
ぶっちゃけ「ろくでなしのクソ馬鹿王子」だ。
金髪の男は、俺の言葉に激怒するかと思ったが、予想に反して何も言い返さず、拗ねたように鼻を鳴らすだけだった。
*
程なくして馬車は建物の陰に停車した。
どうやら、貧民街と郊外の耕作地をつなぐ一本道のようだ。
そこには、伝令役の兵士が待ち構えていた。
「ご報告、申し上げます」
「話せ」
「殿下の指示に従い、酒場の包囲は完了しました。――――ですが、我々が現場に到着した時には、既に馬車の姿はどこにも見当たりませんでした」
「勘付かれたか。……まあ、やむをえまい。麻薬の押収を優先する。ただちに突入し、倉庫を検めろ。現物が見つかれば、関係者の身柄を拘束。何も無ければ、いつものように俺の名前を出して構わん。適当な言いがかりをつけて誤魔化しておけ」
金髪の男は即断即決で指示を出し、伝令役の兵士も短く敬礼すると、即座に走り去った。
「確証無しで動いてんのか」
「倉庫に麻薬があれば、それが証拠になる。そもそも、空振りをしてもいいように正規兵ではなく、俺の私兵が動いているのだ」
それはつまり、もし、突入が空振りに終わっても、下がるのは金髪の男の評判だけで、逆に突入が成功した場合には、国の評判が上がるということだ。
似たような軍服の正規兵と私兵の区別など、一般人につくとは思えない。
「そんなことをしたら、お前の評判が悪くなるだけじゃないのか?」
「構わん。それに、完全に俺の独断で動いているわけではなく、陛下をはじめ国の要人は承知のことだ。諸侯の貴族どもは知らんだろうが」
「ふーん」
一応、金髪の男も国のことを考えて、国のために行動しているようだ。
(ただの馬鹿王子くらいに評価を改めるか)
『それでもマイナス評価なんですね』
(こいつ、最初にライカを馬鹿にしたからな)
その件については、金髪の男がライカに直接謝罪するまで許すつもりはない。
だが、今後は少しだけ挑発するのを自粛してもいいだろう。
(これからは、ハウンドや、山賊のおっさんや、フランツと同じくらいにしよう)
『……それは自粛していないのでは?』
俺は事の顛末を見届けるため、どっかりとソファに座り直した。
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