事件発生
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俺たちが新装備を身につけたまま馬車に戻ると、姿の見えなかった金髪の男が、五、六人の男たちに囲まれていた。
「何だ? 揉めてんのか?」
だが、それにしては護衛の兵士は何もせずに突っ立っているし、ゲンジロウ爺さんもまるで慌てていない。
「あの者たちは、殿下の……まあ、取り巻きだの。だから、何も問題ない」
「子分みたいなものか」
ゲンジロウ爺さんの言葉に納得して金髪の男に歩み寄ると、俺たちが戻ってきたことに気が付いた取り巻きの男たちが、一斉に挨拶をした。
「剣聖様! お疲れ様です!」
「うむ。おぬしたちも、ご苦労様だの」
ゲンジロウ爺さんが声をかけると、男たちは一斉に頭を上げて、今度は俺やハウンドを見てぎょっとした表情を浮かべた。
「殿下、後ろの方たちは……?」
「ん? ああ、気にするな。ゲンジロウの連れだ」
「連れというと……。もしかして、大森林の勇者様ですか?」
取り巻きの一人がそう呟くと、途端に周囲の男たちがざわめき、金髪の男は面白くなさそうに舌打ちをした。
「大森林の勇者って呼び方、有名なのか?」
「そうだの。誰が呼び始めたのかは知らんが、いつの間にか定着しておるようだ。先日、町の入り口で起こした騒動も含めて、城下ではいろいろ噂になっておるようだの」
具体的には、オターネストに乗り込んで魔王軍の指揮官を打ち倒した大森林の勇者が、王都エードラムを訪れていること。
剣聖と力比べをした結果、大森林の勇者が勝利したこと。
大森林の勇者と剣聖が手を組んで、魔王を討伐する旅に出ること。
大森林の勇者は魔王討伐の見返りとしてロザリア王女との結婚を要求し、国王陛下もそれを快諾したこと。
この四つが、城下町では噂されているらしい。
「後半とか、根も葉もないデマじゃねーか」
「まあ、噂とはそういうものだからの」
俺とゲンジロウ爺さんが小声で話し込んでいると、取り巻きの一人がおずおずと俺に近づいてきた。
「あの……。すみまぜん。握手をしてもらってもよろしいですか?」
「握手? ……まあ、別にいいけど」
俺が差し出された手を握ると、取り巻きの男は感激したように表情を輝かせた。
「うぉぉぉ! やっぱり、デカいっすね! 感動です!」
「お前らって、あいつの子分なの?」
「え? あ、はい。そんな感じです」
取り巻きの男は、俺が金髪の男を「あいつ」呼ばわりしたことに驚いたようだが、それでもすぐに質問に答えてくれた。
「俺たちは王都のことには詳しいんで、殿下の指示でいろいろと動き回っているんです」
「こやつら、組合やら自治会やら、王都に存在する主だった組織の顔役の息子らしい。殿下がそれをまとめ上げて、うまく諜報に役立てているようだの」
「ああ。時間も金も持て余しているボンボンか」
俺が指摘すると、取り巻きの男は「厳しいっすね」と苦笑いを浮かべた。
反論してこないあたり、自覚はしているらしい。
「殿下、大森林の勇者様にも手伝っていただけるのですか?」
取り巻き男が後ろを振り返って尋ねると、周囲から「おおっ」と喝采の声が上がる。
だが、金髪の男は仏頂面のまま、首を横に振った。
「その予定はない。――――ゲンジロウ、こっちへ」
「何か動きがありましたかな?」
金髪の男の表情を見て、ゲンジロウ爺さんの表情も神妙なものに変わる。
(何だか話に置いてきぼりだな)
俺は握手をした取り巻きの男を捕まえて、話を聞き出すことにした。
「何か緊急事態か?」
「あ、はい。今、ちょっとヤバいことになっていまして」
「ヤバいこと?」
「ここ最近、王都に出回っている麻薬の隠し場所を突き止めたんですよ。貧民街の近くの酒場なんですけど。しかも、今、そこで怪しい馬車が積み荷を降ろしている最中なんです」
取り巻きの男は、躊躇うことなくペラペラと情報を開示した。
俺が勇者で、金髪の男とも顔見知りだから構わないと思っているのかもしれないが、かなり口が軽い。
「お前ら、そんな世直し的なことをやってるのか」
「表に出てこないような情報は、軍服を着た兵士よりも、俺たちの方が早く集められるんですよ。なにしろ、俺たち地元の顔役の息子だから」
「なるほどな。他には――――
「おいっ! こいつらに余計なことを話すんじゃないっ!」
俺が更に情報を引き出そうとすると、金髪の男が声を荒げて割り込んできた。
「貴様らには関係のないことだ。引き続き、楽しく買い物でもしていろ」
「お前はどうするんだ?」
「ゲンジロウと現場に向かう。俺の国で麻薬を売りさばくなど許さん! 完全に包囲して一網打尽にしてやる!」
怒りに燃える形相でそう呟くと、金髪の男はゲンジロウ爺さんに「行くぞ」と声をかけて、馬車に乗り込んだ。
当然、俺たちもゲンジロウ爺さんの後に続いて馬車に乗り込んだ。
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