何の魔法を覚えたい?
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隔日で更新できるように頑張ります。
「それじゃあ、今日のところは自分が何の魔法を使いたいのか、決めるだけにしようか」
「いきなり難易度が下がったな」
「うん。才能がある勇者向けの講義から、一般人向けの講義に切り替えたからね」
「……」
屈辱的な仕打ちを受けてしまったが、悲しいことに今までの話がちんぷんかんぷんなので、何も言い返すことができない。
「さっきも言ったけど、魔法を習得するには、ます、自分の体の中にある魔力を知覚できるようにすること。そして、覚えたい魔法の対象物に魔力を注ぎ込むこと。この二つの練習を徹底的に繰り返すことが必要だよ。ゲンジロウさんのように短期間で魔法を覚えてしまう人もいれば、逆に数年かかる人もいるから、大切なのは諦めないこと」
そういうと、ジョアンはテーブルに頬杖をついて、俺とライカの顔を覗き込んだ。
「で、君たちは何の魔法を覚えたいのかな?」
「何で楽しそうなんだよ……」
いきなりそんなことを言われても、すぐには答えられない。
「何かお勧めはあるのか?」
「そうだね。覚えやすいのは、風、水、土。覚えにくいのは火かな。それ以外にもあるけど、汎用性が高いものを選んだ方が応用も利くから、この四つの中から選ぶことをお勧めしておこうか。ちなみに、私はお察しのとおり水の魔法使いだよ」
そう言うと、ジョアンはコップを引っ繰り返して、再び球状になった水を掌に乗せた。
どうでもいいが、あまりにも気軽に魔法を使うから、神秘的な超常現象のはずが、タネも仕掛けもある手品のように見えてしまう。
「水の魔法にできることは、さっきも言ったように、温度を変えてお湯や氷にしたり、泥水をろ過して飲めるようにしたり、洗濯物の汚れを効率よく落としたりと、旅や日常生活に役立つ魔法が多いね。戦闘用の魔法もあるけど、水辺が近くにあるかないかで、魔法使いとしての脅威は大きく変わる感じかな? あ、船乗りには水か風の魔法を使える人が多いよ」
ジョアンは丁寧に、他の魔法についての特徴も教えてくれた。
*
風の魔法は使い勝手が良い。
風とは空気のことなので、風の魔法使いはどこにいても安定して実力を発揮できる。
また、汎用性が極めて高く、洗濯物を乾かす程度のそよ風から、敵の攻撃をそらす突風や、敵を吹き飛ばす竜巻まで、強弱で魔法を使い分けることができる。
どちらかと言えば、戦闘向きの魔法。
空を飛ぶ飛翔魔法も風の魔法の発展形。
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土の魔法は、用途が限定される職人気質な魔法。
地面を柔らかくしたり逆に固くしたりできるので、土木作業や園芸や農業では役に立つが、日常生活で使う機会はあまり無い。
戦闘においては、土の壁や土豪を作って、敵の攻撃を防いだり、進攻を妨害したりするのに役立つ。
攻撃もできるが、防御や防衛で真価を発揮する魔法。
就職に有利なので、手に職を付けたい人にはお勧め。
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火の魔法は、攻撃魔法の花形。
戦場では、火の魔法使いの人数が戦況を左右すると言われる。
ただ、対象物が自然界にいくらでも存在する風、水、土の魔法とは異なり、火の魔法使いは種火を持ち歩かなければ、とっさに魔法を使うことができない。
もし、種火の無い状態で火の魔法を使うと、魔力の消費量が半端なく膨れ上がるため、火の魔法使いは一般的に燃費が悪いと言われており、実際に悪い。
日常生活では、種火の魔法が料理や野営をする時に役に立つ。
ちなみに、雨が降っていると実力が半減する。
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一通りの説明を聞いた後も、俺とライカはどの種類の魔法を覚えるべきなのか、決めかねていた。
「これって、覚えられなかったら、途中で別の魔法に変えてもいいのか?」
「人によっては相性もあると思うから、別に構わないよ。でも、あれもこれもと手を出すのはお勧めしないかな。他の種類の魔法を覚えることで、今まで使えていた魔法が弱くなったり、使えなくなったりした事例もあるからね」
二兎を追う者は一兎も得ず、というやつだろうか。
『でも、魔王軍のオズは火の魔法と、飛翔魔法を使っていましたよね?』
(それもそうか)
飛翔魔法は風の魔法の発展形なので、オズは火と風の魔法を使っていたことになる。
そのことについて尋ねると、ジョアンは驚いた様子もなく「そうだね」と頷いた。
「初心者や中級者があれもこれもと手を出すのは良くないけど、上級者が異なる種類の魔法を補助的に覚えることは、それほど珍しくないよ。剣を習ったり体を鍛えたりするのと同じで、魔法にも才能の限界はあるからね。頭打ちになった魔法を鍛え続けるよりは、他の種類の魔法を覚えた方が良いこともある」
しかも、新たに習得する魔法の種類によっては、元々の魔法が弱まるどころか、逆に強化されることもあるらしい。
「火と風の組み合わせは、正にそれなんだ。火は風を受けると、激しく燃え盛るからね。風の魔法を組み合わせることで、より強力な火の魔法を使えるようになる。勿論、二つの魔法を同時に制御するだけの技術が必要になるけれど」
(飛翔魔法を使えたくらいだから、技術はあるんだろうなあ)
今更ながら、オズと真っ向勝負にならなくて本当に良かったと思う。
(やっぱり、人質って大事だな)
『人質の有効性を再認識する勇者とか、ないわー』
山田の呆れ声を聞きながら、俺は改めて、自分にはどの魔法が適しているのかを考えた。
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