ジョアンとロザリア その四
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「いいね! 君のそういうところ、私は気に入ったよ!」
「そういうところって?」
「深く考えているのに、何も考えていないのと、まったく同じ結論に辿り着くところ!」
「……」
一応、褒められているようだが、まるでそんな気になれない。
俺が顔をしかめてジョアンが落ち着くのを待っていると、それまで黙って話を聞いていたロザリアが、おもむろに立ち上がった。
「あの、覇王丸様。私、お二人のお力になれるかもしれません」
「どういうことだ?」
「王国の兵士を護衛として、お二人に同行させることができるかも――――」
「え、本当か?」
思わず、ロザリアが最後まで言い終える前に、聞き返してしまった。
それくらい、魅力的な提案だったからだ。
「仲間の一人――――ハウンドって奴が、今回、一緒に行けないからさ。もし、それができるのなら、凄く助かる」
ハウンドが大森林に向かうフランツに同行することになったのは、他ならぬ俺の判断だが、もし、それがなかったとしても、結局、ハウンドは留守番になっていたと思う。
耳と尻尾を隠せば普通の人間と見分けのつかないライカと違って、ハウンドは獣人の容姿を誤魔化すことができないからだ。
「ハウンドって、城内で噂になっている黒豹の獣人のことかい? こんなことは言いたくないけど、獣の血が濃い獣人を連れて行ったら、多分、喧嘩を売る前に戦争になるよ」
「だから、連れて行かない。でも、そのせいで戦力的に少し不安なんだ」
今まで、御者に、見張りに、食料調達にと。八面六臂の活躍をしてくれたハウンドが抜ける穴は、かなり大きい。その穴埋め要員がアホ兄弟の二人では、心許ないと思っていたのだ。
ロザリアはそんな俺を安心させるように、穏やかな笑顔を浮かべた。
「お任せください。私、神聖教会にはちょっとした伝手があるんです。それを使えばお二人の旅の安全は保障できると思います」
「マジか! ありがとう!」
俺が両手で包み込むように握手をして感謝の意を伝えると、ロザリアはきょとんとした後、すぐに赤面して俺の手を振り払った。
「お礼には、お、及びません。早速、父上に掛けあってみますねっ。それではっ」
あたふたした様子でその場を取り繕いながらも、優雅に挨拶をして退室するロザリア。
その様子を眺めていたジョアンが、見咎めるような視線を俺に向けた。
「覇王丸ぅー」
「何だよ」
「ロザリアは社交的な性格だけど、今まで貴族の男としかまともに話したことがないんだよ」
「だから?」
「覇王丸みたいに、身分を気にせずに話しかけてくる男も、気取らずに素直な感情をぶつけてくる男も、貴族の中にはいなかったってこと」
要するに、免疫の無いことをされて、動揺してしまったということだろうか。
「まさか、それだけで惚れられたわけじゃないよな?」
「惚れられてはいないけど、意識はさせちゃったかもね」
「マジか」
一国の王女が、そんなにちょろくてよいのだろうか。
「覇王丸が活躍して名を上げれば、もっと意識してもらえると思うよ」
「何の話だよ」
「人間なんて、ほんの些細なことで好きになったり嫌いになったりするって話さ。それじゃ、ロザリアも帰ってしまったことだし、そろそろ魔法の話でもしようか?」
ジョアンは部屋の隅に控えていた使用人の女性に、コップ一杯分の水を用意させた。
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