剣の稽古をする
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翌日から、俺たちはゲンジロウ爺さんに付き合って、午前中に剣の稽古をすることになった。
場所は王城の中庭。ちょっとした公園くらいの広さがある。
参加者は、俺、ライカ、ハウンド、アホネンとアホカスのアホ兄弟、そして、なぜか金髪の男がいた。
「なんで、お前がいるの?」
「ふざけるな! 貴様らこそ、なぜ、ここにいる!? 俺の鍛錬の邪魔をするな!」
相変わらずの喧嘩腰で、俺の質問に答える金髪の男。
どうやら、いつもは金髪の男が中庭でゲンジロウ爺さんに稽古をつけてもらっているらしい。
「真面目に鍛錬なんかしているのか? なんだか意外だな」
「ふっ……。俺は持って生まれた才能の上にあぐらをかいているだけの男ではない!」
「持って生まれた才能なんて無いだろ?」
「何だと、貴様ぁっ!」
ブチ切れた金髪の男が俺に向かって木剣を振り下ろそうとした時、
「やめんか」
いつの間にか忍び寄っていたゲンジロウ爺さんが、俺と金髪の男の頭を木剣で小突いた。
「いたっ! ゲンジロウ、貴様! この俺に手を上げたな!?」
「剣の稽古ですからな。回復薬で治る程度には厳しく指導をしてもよいと、陛下からお許しをいただいております」
「くっ!」
金髪の男の顔が悔しそうに歪んだ。殿下も、陛下には逆らえないらしい。
「黙って素振りを続けてくだされ」
「もう何百回も振っているではないか! いつまで続けるのだ!」
「基本の動作を体が覚えるまで、何千でも何万でも振っていただきます」
「くっ!」
金髪の男は悔しそうに歯を食いしばりながら、素振りを再開した。
「なんだ。お前、爺さんの言うことは聞くんだな」
「それがどうした!」
「俺の言うことも聞けよ」
「なぜだ!? 訳が分からん!」
大声で叫ぶ金髪の男と俺の頭に、再びゲンジロウ爺さんの木剣が振り下ろされた。
「いい加減にせんか。覇王丸も無駄口を……」
説教を口にしかけたゲンジロウ爺さんの言葉が、俺の素振りを見てピタリと止まった。
「おぬし、昨日、ワシに木剣で叩かれた時の腕の痣はどうした?」
「は? 痣なら消えたけど」
俺の素振りから才能の片鱗を感じ取ったわけではないらしい。
「ワシがくれてやった高級回復薬を飲んだのか?」
「飲んだのは普通の回復薬だけだ」
高級回復薬は後で売るつもりだったが、昨日だけでも挨拶に来た貴族たちから結構な金額のカンパを貰ったので、大事に取っておくことにした。
「もしかして、昨日、風呂に入った時には消えておったか?」
「その時は、もう消えてたな」
「ふむ……。そいつは早すぎる」
自慢ではないが、俺は昔から怪我の治りが早かった。
『言われてみれば、転移した翌日には普通に歩いていましたね』
(あの時もライカに貰った回復薬を飲んだからな)
『HPと防御力が高い上に回復するとか、敵キャラとしては最悪じゃないですか』
(勇者なんだけど)
なぜ、魔王軍目線で酷評されなければいけないのか。
ゲンジロウ爺さんは、思案顔のまま黙り込んでいたが、やがて「分からんな」と呟いた。
「その回復力が、勇者の特性によるものなのかどうか。ワシにも同じ力があるのか試してみたいところだが……。恐らく、無いだろうな」
「そうなのか?」
「高齢になれば、自然と怪我は治りにくくなるからの」
今からその回復力を身につけるのは無理だ、と。
ゲンジロウ爺さんは断言した。
その後、俺以外の全員がヘトヘトになるまで素振りの稽古は続き、最後にゲンジロウ爺さんと簡単な手合わせをして稽古は終わった。
勿論、全員がコテンパンにされた。
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