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進化の魔王と覚醒の覇王。 ~転生する前から世界最強~  作者: とらじ
アルバレンティア王国と神聖教会編
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ライカは寝ぼけている

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

隔日で更新できるように頑張ります。

 晩飯を食べた後、視察から戻ってきたゲンジロウ爺さんに誘われて風呂に入った。


 王城内には来賓用の浴場があり、これまた無駄なくらい豪華な造りをしていた。


「ああいうところは完全に見栄だが、見栄を張ることで外部の有力者に国威を示すことができるわけだの」


 風呂上がりに俺の部屋に立ち寄ったゲンジロウ爺さんは、ライカの髪を櫛ですきながら、風の魔法を使って器用に乾かしている。


「ふわぁぁぁぁぁ……。気持ちいいですぅぅぅ……」


 久しぶりの風呂でのぼせ気味になってしまったライカは、夢見心地のだらしない表情を浮かべて、ゲンジロウ爺さんのなすがままになっていた。


 風呂上がりに扇風機にあたっているようなものだから、そりゃ気持ちいいだろう。


「そういえば、ハウンドとかいう獣人は風呂に入らんのか?」


「体毛を乾かすのに時間がかかりすぎるから、入らないらしい。太陽が出ている時に水浴びをするからいいって断られた」


「それは難儀だの」


「まあ、実際は遠慮したんだろうけどな」


 なんだかんだで、ハウンドは空気を読むところがあるので、入城する際に渋い顔をされたことを覚えていて、使用人たちに気を遣った可能性が高い。


「それにしても、そんなドライヤーみたいな使い方もできるんだな」


「この世界における魔法は、どちらかと言えば生活を便利にするためのものだと考えられているからの。ほれ、それもそうだろう」


 ゲンジロウ爺さんが指さした先には、テーブルに置かれたコップがある。


 コップの中身は冷えた氷水だ。水の魔法を使えば、冬場ではなくても、いつでも水から氷を作り出せるらしい。


「日常生活で使う魔法に比べて、戦闘用の魔法を使える者はかなり少ない。だから、強い魔法使いはそれだけで重用される。多くの場合、参謀や副官になるようだの」


「そうみたいだな」


 俺はサルーキとオズのコンビを思い出した。


 結局、あの二人は、あれからどうなったのだろうか。


 失態の大きさを考えれば、何事もなく指揮官と副官を続けていられるとは思えないのだが、俺や山田が想定していたよりも、魔王軍の指揮系統は大崩れしなかった。


 現在、戦況は人類軍が押せ押せの状態なので、些末なことなのかもしれないが、警戒するに越したことはないだろう。


     *


「爺さんは、よく魔法を使えるようになったな? 簡単に覚えられたのか?」


「ワシの場合は、武道の呼吸法が役に立ったの」


 ゲンジロウ爺さんの説明によると、この世界には魔法を使うための力(魔力やMPのようなもの)が存在するらしく、それは精神統一で制御できるらしい。


 人生の大部分を剣の修業に費やしたゲンジロウ爺さんは、それが呼吸法の応用だと気づいた時点で、すぐに魔法を使えるようになったのだそうだ。チートすぎる。


「力をためて、目的を与えて、発散させる――――例えるなら、刀を構えて、狙いを定めて、振り下ろすという一連の作業を、自分の使う魔法に置き換えて、頭の中で実行する感じだの。それができれば、あとは反復練習で魔法を習得できる……と思う」


「よく分からん」


「イメージも大事かもしれん。あとは、対象が近くにあった方がよいだろうな。例えば、風の魔法なら屋外の方が、水の魔法なら水辺の方が使いやすい」


 そういう意味では、ゲンジロウ爺さんの風の魔法は、比較的、覚えやすい魔法なのだろう。


 風とはつまり、空気のことだからだ。


「火の魔法ってどうなんだ?」


「一般的には、覚えにくいとされておる。まったく火の気のない場所で、戦闘用の火の魔法を使える者がいたら、それは一流の魔法使いだと言えるだろう」


「そうかぁ」


 やはり、オズは一流の魔法使いだったらしい。


「俺も魔法を使えるようになるかな?」


「そりゃ、勇者なのだから覚えられると思うぞ。その気があるなら、ワシが師事した宮仕えの魔法使いを紹介してやろう」


 ゲンジロウ爺さんは俺と約束すると、ライカの頭をぽんぽんと優しく撫でた。


「ほい。お嬢ちゃんも終わったぞ」


「ふわぁぁぁ……。どうも、ありがとうございまふ……」


「もう、半分、眠ってるじゃねーか」


 こんなにも気の緩んだライカは初めて見る。


「仕方あるまい。生まれて初めての旅だったのだろう? 体力も神経の太さも、おぬしと一緒にしては可哀そうだ。今日はもう休ませてあげなさい」


「そうする」


「ではの」


 また明日、と。


 ひらひらと手を振って、ゲンジロウ爺さんは部屋を出て行った。


「ライカ、もう寝るか?」


「寝まふ」


 ライカは既に意識が半分夢の中にいるようだ。呂律が回っていない。


「自分で歩けるか?」


「にゃあ」


「おい、しっかりしろ」


 狼の獣人としての誇りも失いかけていたので、俺はやむなくライカを抱きかかえた。


「覇王丸さぁん……」


「なんだ?」


「凄いご馳走れすね……」


「え? 晩飯の夢?」


 普通、晩飯を食って満腹の状態で、また晩飯の夢を見るものだろうか。


 余程、晩飯に感動したのだろうか。まあ、たしかに、うまかったけど。


(しかし、今回も山田がいなくて助かったな……。ライカの名誉が守られた)


 山田は俺を無計画に転移させた件で、仕事部屋に呼び出すのがどうしても嫌だったらしく、定時で逃げるように帰宅している。


 俺はライカを起こさないように慎重にベッドに横たえると、布団をかけた。


「覇王丸さぁん……」


「ここにいるよ」


「ずっと、いてくらさい……おねがいしまふ……」


「ずっといるから安心しろ」


 そう言って手を握ってやると、ライカは赤ん坊のようにキュッと握り返してきた。


「……俺も寝るか」


 俺は手を繋いだまま、ライカを起こさないように奥にずらして、ベッドの空いたスペースに寝転んだ。


(風呂上がりだからか? なんだか良い匂いがする)


 ライカの寝息をすぐ隣で聞きながら、俺の王都での初日は終わった。

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[一言] 可愛すぎて吐きそu(*´’Д’):;*:;カハッ …_(┐「﹃゜。)_…
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