フランツとウォートランド侯爵 後編
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「対外向けの窓口については、人間と最低限の交流をしていた森人の集落があるはずだから、そこを使わせてもらおうと考えている」
「いいんじゃないか」
「問題は、現地の住民が私や、私の考えを受け入れてくれるかどうかなのだが……」
「大森林の獣人や森人は、元々、人間のことをそこまで嫌っていないぞ」
山賊のような見た目のおっさんや、身長二メートルの大男をあっさりと受け入れてくれるのだから、そのあたりの懐の深さに関しては、心配は要らないはずだ。
「俺の名前を出せば大丈夫だと思うけど、心配ならハウンドを同行させようか?」
「え?」
突然の俺の提案に、ライカが驚いたような声を上げた。
「あの……。いいんでしょうか?」
「何が?」
「大森林まで戻ったら、結構な日数がかかると思うんですけど。ゲンジロウお爺さんが数日で許可が下りるって言っていたので」
「ああ。神聖教会の話か」
そういえば、神聖教会を訪れるための許可待ちで、王都に滞在することになったのだった。
豪華な部屋に案内されたあたりから、すっかり観光気分になっていた。
「ハウンドが戻ってくるまで待ちますか?」
「いや。あいつは置いて行こう。今、決めた」
「えぇ!?」
俺の突然の決断に、ライカが驚いたような声を上げた。
「話を聞く限りでは、神聖教会が獣人差別の元凶だろう? ハウンドがいると、面倒なことになるかもしれない。だから、置いていく」
「私は……?」
「ライカは耳と尻尾を隠せば誤魔化せると思う。あ、どうしても不安なら――――」
「行きます」
留守番でもいい、と。
俺が最後まで言い終える前に、ライカは断言した。
「もしかしたら、迷惑をかけるかもしれませんけど……」
「気にするな。もし、獣人だとバレて危害を加えられそうになったら、この国との外交問題になると脅して、そのすきに逃げるから」
しれっと爆弾発言を投下する俺の向かい側では、フランツとウォートランド侯爵の二人が、何とも言えない顔をして話を聞いていた。
「冗談だとは思うが……。その発言は、聞かなかったことにしてもいいかね?」
「お、いいぞ。むしろ、聞かなかったことにしてくれ」
「フランツから話を聞いた時は、大げさに言っているのだろうと思っていたが……。まあ、時代を変えるほどの勇者というのは、本来、君のように破天荒な存在なのだろうね」
そう言って、ウォートランド侯爵は懐から取り出した麻袋をテーブル上に置いた。
「これは少ないが、私からの感謝と激励の気持ちだ。王都にいる間の小遣いとでも思ってくれればいい。好きなことに使いなさい」
「お、ありがとう。悪いな。――――おお。結構、重い」
「ちょ、失礼ですよっ!」
俺が麻袋の重さを確かめるように上げ下げしていると、横からライカに注意された。
ウォートランド侯爵はその様子を無言で眺めていたが、ややあって席を立った。
「それでは、今日はこれで失礼するよ。魔王軍をこの大陸から追い払うまで、私は王城と自分の城を行ったり来たりの生活だが、また会う機会はあるだろう」
「そうだな」
「次は、私の城に招待しよう。是非、そこのお嬢さんと一緒に訪れてくれると嬉しい」
「近くを通ることがあったら、そうする」
俺が適当に返事をすると、ウォートランド侯爵はフランツと共に部屋を出て行った。
(なんだろう……)
『何がですか?』
フランツとウォートランド侯爵が出て行った後、胸の中にもやもやした感情が残った。
(何か大事なことを忘れているような気がする)
『ハウンドのことじゃないですか? また、本人不在の時に勝手に行動を決めちゃって』
(それだ)
案の定、俺はハウンドから散々愚痴られることになるのだが、それは翌日のこと。
その日は他に突発的なイベントが起こることはなく、俺とライカはようやく豪華な部屋で存分に寛ぐことができた。
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