フランツとウォートランド侯爵 前編
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隔日で更新できるように頑張ります。
最後に現れたのは、フランツとその上司のウォートランド侯爵だった。
「覇王丸君!」
「相変わらず、暑苦しいな」
「ありがとう! 君のおかげで要職に復帰することができたよ!」
フランツは俺の悪口など意にも介さず、両手でしっかりと俺の手を握ってきた。
「要職と言っても、オターネストの市長をやるのとは訳が違うぞ」
「はっはっは! 望むところだよ。大森林を開発するなんて夢があるじゃないか」
「獣人と森人と山賊しかいないぞ」
「はっはっは! 望むところだよ。オターネストは港湾都市だから……え、山賊がいるの?」
「いる」
厳密には、山賊のような見た目の木こりが五人ほどいる。
「まあ、全員、良い奴だから心配するなよ」
「そ、それならばいいんだが……」
すっかり委縮した様子でフランツが横にずれると、今度はウォートランド侯爵が手を差し出してきた。
「はじめまして、勇者殿。私からも礼を言わせてもらう」
「どうも」
白髪だがそこまで高齢という感じではない。
フランツよりも背が高く、握った手には力強ささえ感じられた。
「勇者殿の提案のおかげで、フランツの処分をうやむやにすることができた。私としても、手付かずのまま放置していた大森林を管理できるのはありがたいと思っている」
「大森林やオターネストがある辺りは、元々、あんたの領地なのか?」
「元々ではないが、私が陛下から管理を任されている地方ではある」
ウォートランド侯爵の説明によると、アルバレンティア王国は王族が直接管理する王都周辺の他に、西部、東部、南部の三つの大きな地方が存在し、それらを三人の侯爵がそれぞれ管理しているらしい。
日本で例えるならば、王都が東京にあり、王族はその周辺の関東地方を直接管理し、侯爵が管理しているのは東北、中部、近畿などのその他のエリアということだ。
「通常、伯爵が派遣されるのはオターネストのような都市であったり、あるいはもっと小さな町や村であったりするのだが、今回は特例なのだろう。大森林一帯を管理するとなると、私の管理する土地の二割から三割ほどをフランツに切り取られることになる」
「そんなに広い土地を、今まで放置していたのか」
「耳の痛い話だ」
俺たちは応接間のテーブルを囲むように椅子に座り、大森林の管理方法について、二人から簡単な説明を受けた。
「俺としては、細かいところにまで口を挟むつもりはないから、そっちで決めてくれていい。ただ、集落の皆の、今までの生活を大きく壊すようなことはしないでほしい」
「勿論、そこは配慮するつもりだ」
俺からの要望を、フランツは当然のことのように受け入れた。
「ただ、正式な領地、領民になる以上、今までのように隠れ住むというのは都合が悪い。対外向けの窓口になるような場所は必要になるし、生活水準を高めるために、少しばかりのテコ入れはすることになると思う」
「それくらいなら、いいんじゃないか」
俺としては、ボルゾイたちが不法占拠ではなく、正当な権利として大森林で暮らせるようになればそれでよかったので、あまり開発行為には力を入れてほしくないのが本音だ。
ただ、王都の文化水準と比べると、やはり、大森林での生活は原始的だと言わざるを得ない。
生活の利便性が増す程度の変化なら、多分、集落の皆も受け入れてくれるだろう。
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